【5月25日 AFP】ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏(73)が再選を狙う11月の米大統領選は、民主党候補ジョー・バイデン(Joe Biden)氏(77)との波乱含みの戦いとなるはずだった。ところが、そこに勃発した新型コロナウイルスの流行は、米国で9万人以上を死に至らしめ、経済を停滞させ、二人のレースをシュールな混乱の中に投げ込んだ。

 大統領選まで半年を切ったにもかかわらず、両氏とも通常の選挙運動は行えていない。有権者たちは身の安全に不安を抱いており、トランプ氏は突如、一世紀に一度の危機への対応力を問う国民投票に直面したような格好だ。

 ジョージ・ワシントン大学(George Washington University)の政治学教授、クリストファー・アータートン(Christopher Arterton)氏はAFPに「ここからどう展開するか全く読めない」と述べた。

 4か月前、2020年米大統領選のストーリーは明白に見えていた。

 トランプ氏は過去最低の失業率と堅調な国内総生産(GDP)成長率を喧伝(けんでん)しながら、押しの強い実業家としてのキャリアから転身した大統領職をあと4年続けると誓っていた。

 一方、バラク・オバマ(Barack Obama)前政権下で副大統領を務めたバイデン氏は、今から思えば穏やかだったオバマ時代への郷愁を誘い、リアリティーショー・スタイルのトランプ政権がもたらすスキャンダルや分裂に終止符を打って「アメリカの魂」を復活させると誓っていた。

 世論調査ではバイデン氏がリードしていたが、11月3日の大統領選当日にはトランプ氏が優勢になっているだろうと大方の人が思っていた。

 だが、コロナウイルスがこの台本を引き裂いた。

 米国が自らの勝利をたたえる夢を描いていたトランプ氏は代わりに、新型ウイルス流行という危機への自分の対処能力を、国民がどう判定するかに運命を委ねることとなった。

■国民投票の様相

 過去の米大統領選の結果を正確に予測してきたことで知られるアメリカン大学(American University)の大統領史専門家、アラン・リヒトマン(Allan Lichtman)氏は「今回の大統領選は主として、トランプ大統領に対する国民投票になるだろう」という。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)危機は、2001年9月11日に起きた米同時多発攻撃や2008年の大不況と同じくらい高度なリーダーシップが試される事態だ。

 そしてトランプ氏自身は、点をつけるとしたら何点かと尋ねられた際、「10点満点だと思う」と述べて、優に合格水準を超えていると信じている。

 しかし、多くの人はそう思っていない。分裂を招くトランプ氏の政治スタイル、共感を示すことの少なさ、何かを試してはその処理に当たる場当たり的な連邦リソースの動員──米CBSの最新の世論調査によると、トランプ氏の仕事ぶりはまずいとする回答は、3月の47%から57%に増えている。

 この状況は新型ウイルスの流行下、多くの国民同様、自宅待機を続けてきたバイデン氏にとって千載一遇のチャンスに見えるかもしれない。

 トランプ氏はいつも熱心に行ってきた支持者集会はあきらめねばならなくなったが、大統領専用機エアフォースワン(Air Force One)でたびたび出かけ、夜のニュースはホワイトハウス(White House)からの会見で頻繁に独占している。

 対照的にバイデン氏はデラウェア州にある自宅の庭より遠くへは外出せず、発信をアマチュア動画に頼っている。