【5月11日 AFP】米小売り大手ウォルマート(Walmart)のシカゴ近郊の店舗で夜間勤務をしていたワンド・エバンス(Wando Evans)さん(51)は3月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で亡くなった。エバンスさんの家族は会社を非難し、過失でウォルマートを訴えている。この訴訟は、新型コロナウイルスをめぐる最初の不法死亡訴訟とされる。

 新型コロナウイルスの感染拡大阻止を目的に実施されていたロックダウン(都市封鎖)が解除され、活動を再開する企業が増える中、米政界では労働者による訴訟から企業を保護する必要性についての議論が急ピッチで進められている。

 エバンスさんは新型ウイルス感染症らしい症状を訴え、上司に帰宅を命じられた2日後に死亡した。訴状によると、その4日後には同じ店舗で働いていた同僚のフィリップ・トーマス(Phillip Thomas)さんも亡くなったという。

 エバンスさんの遺族側は、ウォルマートが店舗を適切に消毒していなかったこと、ソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)の基準を尊重していなかったこと、従業員にマスクなどの個人用防護具を提供していなかったことを主張している。

 ウォルマートはエバンスさんの死に「心を痛めている」と表明。広報担当者は、従業員を守るためにさらなる清掃対策やレジでの飛沫(ひまつ)ガード設置、顧客数の制限などに取り組んでいると語った。

 米国では通常、業務災害が州レベルの行政労災手続きを経て裁定され、雇用者は責任を免れるが、過失については例外もある。

 雇用慣行を専門とする法律事務所コビントン・アンド・バーリング(Covington & Burling)のパートナーであるリンゼイ・バーク(Lindsay Burke)氏は、ロックダウンから従業員を職場に復帰させる際に、企業は政府のガイドラインに沿って法的に自らを守るべきだと述べている。「清掃対策の強化や職場での対人距離の確保など、適切な安全衛生上の推奨事項に従わない雇用主は、過失や不法行為訴訟の対象となり得る」

 米国商工会議所(US Chamber of Commerce)は、「米疾病対策センター(CDC)、州や地域保健当局のガイダンスに従う企業に免責規定を提供することは、企業の行動が重大な過失、無謀、故意の不法行為に当たらない限り有用」との考えを表明している。

 一方、全米製造業者協会(National Association of ManufacturersNAM)の法務顧問であるリンダ・ケリー(Linda Kelly)氏は、企業の保護は「コロナ危機の間、国に奉仕するために運営される重要な事業に限定した上で、緊急事態宣言の期間中と解除後の『慣らし運転』期間にのみ適用されるべきだ」と述べた。