【4月14日 AFP】新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)では流行の規模の大きさに圧倒され、時として一人一人の犠牲者に起きた悲劇が忘れ去られることがある。ここに記すのはそうした悲劇のほんの一部だ。

■「私は死なない」…ディエゴ・ブランコ(Diego Blanco)さん(46)

 ディエゴ・ブランコさんは3月13日、イタリアの自宅で息を引き取った。ブランコさんは、イタリアの感染拡大の中心地ベルガモ(Bergamo)最大の病院で救急医療隊員として働いていたが、3月初めに新型ウイルス検査で陽性となり自主隔離した。だが、当初は体調に緊急を要する症状は表れていなかった。

 死亡する前日、ブランコさんは妻のマルスカ・カポフェッリ(Maruska Capoferri)さんに、「寝なさい、ダーリン。私は死なないから」と声を掛けた。マルスカさんは、「そんなこと言わないで」と言って寝室を後にしたという。

 だが2時間後、夫の様子を見るため寝室に戻った時にはもう「手遅れ」だったと、マルスカさんは現地紙エコ・ディ・ベルガモ(Eco di Bergamo)に語った。ブランコさんは、突然の呼吸クリーゼ(呼吸筋の筋力低下によって急に息苦しくなる状態)と高熱の後、心臓発作で死亡した。

「夫に心臓マッサージをしました」。マルスカさんはそう振り返る。救急医療隊員らが到着し、ブランコさんに挿管しようとしたが、「もう手の施しようがなかった」という。

 7歳の息子、アレッシオ君と後に残されたマルスカさんは、「他人を助けることが夫の使命だった」と話す。

 ブランコさんは喫煙も飲酒もせず健康に問題はなかった。マルスカさんは、「こんなことが起きるとは考えもしなかった」が、「少なくとも夫はさよならと言ってくれた」と語った。

■「一人きりだった」…ティム・ギャレー(Tim Galley)さん(47)

 ティム・ギャレーさんは3月下旬、英ウェールズ北部レクサム(Wrexham)の自宅で息を引き取った。報道によると、政府の助言に従って自主隔離し、医療機関は受診していなかったという。

 ギャレーさんの恋人、ドナ・カスバート(Donna Cuthbert)さん(46)によると、様子を見に行くよう頼まれた隣人がベッドに横たわるギャレーさんを発見した。

 カスバートさんは、地元メディアのノースウェールズ・ライブ(North Wales Live)に、「彼がずっと一人きりだったかと思うと耐えられない」と語った。

 カスバートさんによると、ギャレーさんは10日前から軽いせきが出始め、その後高熱が出るなど症状が次第に悪化していった。だが、社会的により弱い立場の人々に医療リソースが行き渡るようにと、国営医療サービスのヘルプラインを利用することを拒否したという。

 ブライダル会社を経営しているカスバートさんは、ギャレーさんは「最愛の親友」で「ソウルメート」だったと話し、「心がずたずたになった。私の子どもたちも、打ちのめされている」と言葉を詰まらせた。

 英保健当局は新型コロナウイルス感染症らしき症状が出始めたら1週間自主隔離し、症状が著しく悪化した場合にのみ医療機関を受診するよう呼び掛けていた。