【1月10日 東方新報】2001年から停止していた日本産牛肉の中国向け輸出が解禁されることになった。早ければ2020年内に輸出が再開する。ところが、中国のインターネットでは「解禁?ついこの前、上海市内の日本料理店で和牛を食べたけど…」といった書き込みをちらほら見るようになった。中国ではすでににオーストラリア産「WAGYU(和牛)」が流通し、さらには裏ルートでカンボジア産の和牛が普及しているといわれるからだ。「表ルート」の復活で、本当の和牛が中国で広まっていくか。

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 日本から中国への牛肉輸出は牛海綿状脳症(BSE)の影響で2001年に停止した。2010年には家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)が発生。長らく輸出再開協議は滞っていたが、2019年11月25日に日中両政府は、月齢30か月以下の骨なしの牛肉を対象に、中国への輸出再開で合意した。今後、両国で検疫条件を詰めていく必要があるが、日本側は今年にも輸出を再開したい考えだ。

 この時期に合意したタイミングは、日中関係の改善が大きい。今春には習近平(Xi Jinping)国家主席が国賓として訪日する。友好のシンボルとして合意が実現したと言えるが、中国側には「国民の胃袋を満たすため」という事情もある。

 中国では伝統的に「肉」と言えば豚肉。牛肉はあまり食べられていなかったが、生活水準の向上で都市部を中心に消費が増えている。2013年に651万トンだった牛肉の消費量は、2017年には730万トンに拡大。それに伴い輸入量も2013年の41万トンから2017年は97万トンに急増し、米国に続く世界第2位の輸入国となった。

 日本にとっても中国への輸出再開は「悲願」だった。人口減少で国内消費が縮む中、海外の和食ブームを追い風にして、日本政府は牛肉の海外輸出に力を入れている。2018年の輸出量は2010年に比べ6.6倍の3560トンに増加。農産物輸出の看板商品に成長しつつあり、巨大市場・中国への牛肉輸出解禁はその勢いを促進させる。

 ただ、中国側はこのニュースに対する反応は今ひとつだ。北京や上海、広州(Guangzhou)といった大都市などの日本料理店に行くと、メニューに「日本産和牛」と書いてあることは珍しくないからだ。

 中国ではオーストラリア産の「WAGYU」がスーパーなどで売られており、日本料理店で出される和牛もオーストラリア産が多い。1990年代に日本からオーストラリアに精液と受精卵が持ち込まれて以来、現地の牛と交配しない和牛が育成されている(オーストラリア和牛協会という組織もある)。オーストラリア産ながら立派な和牛が中国で流通している。ただ、日本産に比べると和牛の魅力である霜降りの度合いはまだ劣るという。そこで暗躍しているといわれるのが「カンボジア産和牛」だ。

 日本の牛肉輸出先のトップは現在、カンボジアの56億円で、香港の41億円、米国の33億円と続く。経済成長著しいカンボジアとはいえ、日本人が多く住む香港や経済大国・米国よりも多いのは不思議だ。しかもカンボジアは2009年まで日本の牛肉輸入はゼロで、その後、急激に輸入を増やした。そこで、カンボジア経由の「裏ルート」で中国に流れているというのがもっぱらのうわさだ。

 カンボジアに駐在する日本政府系機関の関係者によると、受け入れた日本産牛肉は「カンボジア産」表示の箱に入れ替え、ベトナムなどを経由し、中国の上海や深圳(Shenzhen)に送られており、「カンボジアに届く和牛はほぼすべて中国に渡っている」という。カンボジアは近年、年7%前後の経済成長を続けるが、中国企業の圧倒的な投資が最大の要因。この蜜月関係から「裏ルート」が生まれているという。

 北京市内のある日本料理店では、A2~4級の和牛はオーストラリア産で、最高級のA5はカンボジア産(つまり日本産)を使っているという。「富裕層の舌は肥えているし、日本に旅行へ行って和牛を味わった中国人も多い。いいかげんな肉は出せないので、ちゃんと和牛を出している」と店の関係者。ここまでくると「看板に偽りあり」なのかどうか、何とも言えなくなる。

 日本からの輸出が正式に解禁されれば、こうした不思議な状態はいずれ改善されていくことになるだろう。(c)東方新報/AFPBB News