【11月20日 AFP】元陸上男子短距離のスーパースターであるウサイン・ボルト(Usain Bolt)氏から、米プロバスケットボール(NBA)のレジェンドであるマイケル・ジョーダン(Michael Jordan)氏まで、ごく少数の選ばれし超一流アスリートが他の競技でトップを目指すのは、人生にぽっかり開いた穴を埋めるためであると同時に、心理学的には「強い達成欲求」の表れだという。

 陸上100メートルの世界記録保持者で昨年現役を引退した32歳のボルト氏は、合計8個の五輪金メダルだけでは飽き足らず、プロサッカー選手のキャリアを目指して、サッカー豪Aリーグのセントラルコースト・マリナーズ(Central Coast Mariners FC)でトレーニングに参加していた。しかし、自身を人類最速の男にしたその身体能力は、サッカーに必要な体力レベルとスキルとは全く異なるものだとして、プロとして通用するか疑問視されると、トライアル期間は今月2日に終了。厳しい現実を突きつけられた。

 豪パースのカーティン大学(Curtin University)に勤める世界的心理学者のマーティン・ハガー(Martin Hagger)氏は、アスリートがキャリア晩年に競技を転向するのは、決して簡単なことではないという認識を示し、「ボルト氏のようなアスリートは、心理学的に言えば強い達成欲求という、持って生まれた本能的な欲求を持っている。それは彼らが競技を生きがいにし、競技の世界で自分(や他者)に対して高い能力を示さないと気が済まないということを意味する」と述べた。

「これは、外向性や勤勉性といった人格特性の中で表れる傾向がある」「もちろん、ある程度のナルシシズムの可能性もあるが、多くのトップアスリートが必ずしも自己中心的なエゴイストではないように、そうした素質が必ずしも必要だとは限らない」

 その一方で、プロスポーツ選手にとって競技生活を離れることは男女共に難しく、生活が一変する覚悟が必要になる。競技をする際にあふれ出るアドレナリンも、ファンから注がれる熱い視線もなくなってしまう。

 多くのアスリートが表舞台から離れるのに苦しんでおり、中でも五輪で活躍したオーストラリア出身の競泳選手であるイアン・ソープ(Ian Thorpe)氏やグラント・ハケット(Grant Hackett)氏は、ゴーグルを外してからうつ病に悩まされるなど、自分の中に潜む悪魔との闘いを強いられた。