【12月4日 AFP】中国で今、片脚のサッカー選手が無数のファンの心をつかんでいる。21歳のその選手の名前は何憶義(He Yiyi)。彼が松葉づえをつきながら健常の選手たちとプレーし、右脚で強烈なシュートを決める動画が拡散する中で、ファンは彼に「翼の折れた天使」や「片脚の王様」、「魔法の青年」といったニックネームをつけている。

 幼い頃にはフランスのスカウトの目に留まったこともある何憶義は、12歳のときに骨肉腫で片脚を失った。そして今はアマチュアリーグへの参戦を拒否され、南部の広東省(Guangdong)で細々とサッカーを続けている。

 ところが、代表チームの散々な体たらくにうんざりするサポーターの一部は、彼こそが代表の答えになると皮肉を込めてほのめかしている。何憶義が親善試合でプレーし、健常の選手と対戦する難しさを語る動画は、再生回数が400万回に迫り、さらに伸び続けている。

 動画の中で、何憶義はペナルティーエリア内でボールを受けると、右足でコントロールし、2タッチ目で力強いシュートをゴール上隅に決めている。別の動画では、つえを使ってライン際までボールを追いかけ、成功はしなかったが走り込んだ味方FWにボールを折り返している。

 AFPの電話取材に応じた何憶義は、アマチュアリーグの主催者から繰り返し参戦を断られていると明かしながら「自分が他の選手を傷つけることはありません。なのに(主催者と)言い争いになったこともあります。アマチュアの試合は、すべての人に開かれたものであるべきです。なぜ僕だけがダメなのか。偏見はなくすべきです」と話した。

 何憶義は、義足よりもつえを愛用している。単に使い慣れているからというわけではなく、切断箇所が脚の上部のため、義足だと動きが制限されるからだ。しかも彼はあえて安物を使っているので、相手がタックルに来たとしてもつえが折れるだけで、頑丈なものを使っているときのように他の選手にけがをさせることはないという。

 人生が一変した診断の直前の2008年、何憶義はフランスのスカウトに見いだされ、プロサッカー選手を目指して渡仏する準備を整えていた。ところがパスポートを手に入れる前に、たびたび感じていた左脚の痛みが骨肉腫によるものだと診断された。骨肉腫は子どもや若者に多い骨のがん。医師からは、長く生きるには左脚を切断するしかないと告げられた。

 本人によると、まれにきちんとした試合に出場する機会が与えられたときも、対戦相手には目の敵にされ、からかわれたり、ひどい言葉をぶつけられたりすることが多いという。「すぐに僕を見つけてこう叫ぶんです。『こんなところで何しているんだ?』とね」と何憶義は言う。

 それでも、障害によってスポーツの夢をあきらめかけている人に、何憶義はこんなメッセージを送っている。

「人生に対して前向きになるべきです。家に閉じこもって泣いているだけではいけません。自分を救えるのは自分自身だけ。それに、他の人を笑顔にできる方が良いでしょう?」 (c)AFP/Peter STEBBINGS