【11月7日 AFP】南米アルゼンチンのパタゴニア(Patagonia)地方には数十年前まで、ビーバーは一匹も生息していなかった。だが毛皮産業を始める目的で、ビーバーのつがい20組が持ち込まれると、状況は一変。現在では、ビーバーの個体数は爆発的に増加し、同地方の生物多様性に重大な脅威をもたらしている。

 生物種は常に移動を繰り返している。植物は風で種を運び、動物は泳ぎ、空を飛ぶ。だがすべての生物種が、大西洋やアンデス(Andes)山脈を越える能力を持っているわけではない。

 外来種は計画的あるいは想定外の方法で、人間によって持ち込まれる。外来種はすぐに「侵入種」となり、新たな生息地で在来種の動植物を滅ぼす恐れがある。

 エネルギー、環境、天然資源セクターへの投資を行う「Global Environment Fund」でチリの侵入生物種を専門に扱うプロジェクトコーディネーター、フェルナンド・バエリスビル(Fernando Baeriswyl)氏は「生物多様性が失われると(食物を得たり薬剤を作ったりするために必要な)遺伝物質の蓄えが失われることになる」と指摘する。

 北米や欧州地域では、ビーバーは自然の生息環境と調和を保って生活しているが、パタゴニアでは、在来種の木々はビーバーの活動に追いつけるほどのペースでは再生されない上、クマやオオカミなどの天敵も存在しない。

 ビーバーは、かじり倒した木を使って、最大で高さ3メートルほどのダムを造る。ダムは水路を変化させ、従来の川の流れを溢れさせたり枯渇させたりする結果を招く可能性がある。

 ビーバーは、パタゴニア南端部に輸出されてから数年で、生息範囲を同地域周辺に拡大した。拡大のペースがあまりにも速く、今日では制御困難な存在であることが判明しつつある。アルゼンチンとチリの各当局はビーバーの狩猟を認可したが、こうした取り組みもビーバーの拡大を阻止するには至っていない。地域の研究センターに所属するビーバー専門家、アドリアン・スキアビーニ(Adrian Schiavini)氏によると、アルゼンチンとチリはビーバーを完全に根絶する決意を固めているという。

 侵入生物種は船舶、人の衣類や靴、さらには胃の中にまで潜り込んで移動する。新しい環境に到達すると、天敵がいないために爆発的に増える場合が多い。

 侵入種の拡大に伴い、在来種の自然の餌や在来種自身が他の動物に食べられて様相を変え、生態系全体が侵入種の影響で徐々に変化する可能性がある。最悪の場合、侵入種は在来種をすべて全滅させる恐れがある。専門家らによると、侵入生物種は環境汚染、気候変動と並んで地球に最大の害を及ぼす問題の一つだという。