【9月30日 AFP】泥にまみれ、腐臭を放つ水につかって台無しになった手織りじゅうたんやパシュミナストール――インド・カシミール(Kashmir)地方をこのほど襲った過去100年で最悪の大洪水は、死者450人超を出すとともに地元の特産品を直撃した。

 モンスーンによる豪雨が引き起こした洪水は7日、隣国パキスタンにかけてヒマラヤ山麓の村々を押し流した。ようやく水が引きつつあるカシミールでは人々が後片付けに着手したが、経済的損失は控えめに見積もっても50億ドル(約5500億円)は下らないとみられる。

「35年分の稼ぎが吹っ飛んでしまったよ」。風光明媚で知られるカシミールの中心都市スリナガル(Srinagar)にある自宅の外で、じゅうたん商人のカジ・モハマド・ヤヒア(Qazi Mohammad Yahya)さん(55)は、トラックから降ろされる水浸しのじゅうたんを見て顏をしかめた。

 全て、経営するショールームから回収してきた商品だ。泥の塊にしか見えないものは、パシュミナストールの材料となる高級手つむぎカシミア糸のなれの果て。「損失は計り知れない。私の売る最高級のじゅうたんの大半は、市内のあちこちで水に沈んでいるよ」

 じゅうたん産業はカシミール伝統の基幹産業だ。代々の職人たちは、木製の織機で何か月もかけて複雑な模様を1枚1枚、織り上げていく。完成したじゅうたんは高額で欧米に輸出される。イスラム教徒が多く住むカシミールではインドからの独立やパキスタンへの併合を求めて情勢不安が続いているが、こうした中でもじゅうたんを始めとする手工芸品産業は繁栄を謳歌してきた。

 しかし、今回のスリナガルのダル湖(Dal Lake)の氾濫では、多数のじゅうたん店が浸水被害を受けた。機織もほとんどが損傷し、数百人が職を失った。「復旧までには1年かかるかもしれないし、50年かかるかもしれない。アッラー(神)の御心次第だ」とヤヒアさん。