【2月7日 AFP】美術探偵に「転身」したイタリアの原子物理学者チームは6日、伊ベネチア(Venice)のペギー・グッゲンハイム美術館(Peggy Guggenheim Collection)所蔵の絵画1点が偽物であることを発見したと発表した。

 美術界の専門家と研究者は1970年代以来、フランス人画家のフェルナン・レジェ(Fernand Leger)が1913年~1914年に制作した「Contraste de Formes」シリーズの一部とみられている絵が本物かどうかを確かめる試みを続けてきた。

 レジェ専門家のダグラス・クーパー(Douglas Cooper)氏は、グッゲンハイム美術館に所蔵されている問題の絵が偽物ではないかと疑いを持ち、他の専門家らと共同で絵の出所を究明しようと試みたが成功には至らなかった。

 伊フィレンツェ(Florence)に本部を置く核物理研究所の科学者らは、いわゆる「ボム(爆弾)ピーク」曲線を用いる最新の炭素14年代測定法を利用して、この絵の真偽判定に成功したという。美術界でこの種の年代測定法が使われたのはこれが初めてだ。

 同研究所は声明の中で「この絵が偽物であることがこれで確実となった。謎はこれで解決した」と述べている。

「研究者らは、Contraste de Formesシリーズの一部とみなされている作品のキャンバスの色が塗られていない部分の微小なかけらに含まれる放射性炭素量を測定し、結果をいわゆる『ボムピーク』曲線のグラフ上にプロットした」

「絵画の真偽を究明するために用いられるのは今回が初めてのこの比較法は、問題のキャンバス受けが、レジェが死去した1955年の少なくとも4年後の1959年以降に製造されたものであることを確実に実証した」

 ボムピーク年代測定法は、1955年以降の冷戦(Cold War)時代に行われた一連の核実験で放出された放射性炭素の水準に基づいている。

 同研究所によると、核実験の副次的効果の1つとして、地球大気に含まれる放射性炭素(炭素14)の水準が大幅に増加したという。

 炭素14の水準は1960年代中ばにピークに達し、その後に核実験を禁止する様々な国際協定が結ばれるとともに再び減少した。

 同研究所は「科学者らはこの現象を『ボムピーク』と呼んでいる。放射性炭素は、大気中の水準が増加するにつれ、あらゆる種類の生体内でもそれに応じた割合で増加した。絵画作品のキャンバスを作るのに用いられる綿や亜麻などの植物もこれに含まれる」と説明する。

 グッゲンハイム美術館は、問題の絵のキャンバスの折りたたまれて色が塗られていない端の部分から少量のサンプルを採取し、同研究所に送付した。研究所は加速器質量分析計を用いてこのサンプルを解析した。

 その結果、キャンバスの布地には、作品が本物だった場合に含まれているはずの量よりもかなり多くの放射性炭素が含まれていることが判明した。この解析結果は、学術誌「ヨーロピアン・フィジカル・ジャーナル・プラス(European Physical Journal Plus)」に1月21日付で発表された。(c)AFP