【10月31日 AFP】11月24日に総選挙を控えたオーストラリア。ジョン・ハワード(John Howard)首相は米国の忠実な盟友だったが、もしライバルの労働党ケビン・ラッド(Kevin Rudd)党首が次期首相に選出された場合、中国との関係強化が優先課題になりそうだ。

 ラッド党首は1980年代、北京に外交官として滞在した経歴を持つが、89年の天安門事件以前に帰国している。中国語が堪能で、胡錦濤(Hu Jintao)国家主席の9月初頭の公式訪問時には、その達者な中国語で胡主席を魅了した。

 政治アナリストのNick Economou氏はラッド党首について「外交面では極めて保守的。ただし中国に対しては、経済面ではもちろんその他の分野でも非常に重要な国として、大いに関心を抱いている」と評する。

 胡国家主席との昼食会で演説した際には、外交官時代の思い出を語り周囲を驚かせている。演説の中でラッド氏は「妻もわたしも、中国には特別な愛着を抱いている。中国の国民も文化も大好きだ」と述べた。また、2人の息子が中国語を習っていたことや、娘が今年、オーストラリア国内の中国系男性と結婚したことも明かした。

 オーストラリアのNPO「Chinese Australian Forum(中国豪州フォーラム)」のTony Pang理事長は、ラッド氏の演説が胡主席に大いに感銘を与えたとし、総選挙ではアジア系有権者の間でラッド氏が優勢になるだろうと予測している。

■アジア問題で苦戦するハワード首相

 一方、ハワード首相の地元であるシドニーのベネロング(Bennelong)選挙区は国内で2番目に中国生まれの住民が多く、アジア系住民の票がほかのどこよりもものを言う。

 豪州国内の世論調査では、11年におよび首相の座に就いてきたハワード氏の退陣は免れないだろうとの結果が出ている。

 ハワード首相は1988年に「アジア系移民の削減は国益にとって必須」と発言したことがある。Pang理事長によれば、中国系住民の中には同首相のこの発言をいまだに忘れない人もいれば、真摯な態度で償ってきたと評価する人もいる。

 このように、アジア系有権者にとって今回の総選挙の最大の論点は移民問題だと言える。ただ、Pang理事長は経済問題も大きな論点になるとみている。そして経済問題では、中国そのものが大きくかかわってくる。

■経済発展と中国の関係

 これまでの経済発展の実績を背景に5選目を狙うハワード首相だが、その発展には経済運営と同じくらい、中国からの資源需要が大きな役割を果たしていると批判され、守勢に立たされた。

 ハワード首相はオーストラリア放送協会(Australian Broadcasting CorporationABC)の番組で「資源が大きな役割を果たしているのは確かだが、オーストラリアが過去10年で達成した経済的奇跡には、資源ブーム以上のものがある。すべて中国のおかげだという見方は完全に否定する」と強調した。

 しかし、中国の鉱物資源需要がオーストラリアの長期的な好景気を後押ししてきたことは否定できないとアナリストは言う。

 オーストラリア国立大学(Australian National University)のスチュアート・ハリス(Stuart Harris)教授(国際関係論)はこれについて次のように述べている。「(ハワード政権は)経済運営の成果として低インフレ率、低金利、資源輸出を挙げるが、この3点のいずれにも中国がかかわってくる」

 ハリス教授は、今回の総選挙の結果で豪中関係が変化することはないだろうとしながらも、有権者が投票する際は中国の影響について考えをめぐらすかもしれないと指摘した。

 ハワード政権も中国とは緊密な関係を築いてきた。ラッド氏が次期首相になっても、主に経済的理由から、その関係を維持しようとするだろう。ただし、中国の人権問題や対北朝鮮援助といった複雑な要因も絡んでくる見通しだ。

 政治アナリストのEconomou氏は、ラッド氏が次期首相に就任した場合、中国の人権問題に関連して「困難を強いられるだろう」としつつも、「豪州政府は人権問題よりも経済問題を重視することで知られている」と指摘した。 (c)AFP/Madeleine Coorey