【8月12日 MODE PRESS】日本の伝統工芸や技術に新たな風を吹き込み、価値を見いだすキュレーションが話題の展覧会「WAO~記憶の森~」が8月4日から28日まで表参道・ジャイル(GYRE)で開催されている。輪島塗の赤木明登、会津塗の坂本理恵、和紙の堀木エリ子、阿波藍染めのTatz Mikiら日本が誇る伝統工芸のパイオニアたちによる新作をはじめ、ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)やフェンディ(FENDI)、バカラ(BACCARAT)が日本の伝統工芸とコラボレーションした見事な作品の数々が一堂に並ぶ。「日本の物作り」さらには日本人のアイデンティティをも再考させられる見応えのある内容となっている。今回は総合プロデューサーを務めたファッションジャーナリストの生駒芳子(Yoshiko Ikoma)氏と空間構成を手がけたスペース・コンポーザーの谷川じゅんじ(Junji Tanigawa)氏が展覧会について想いを語った。

■日本(和)の再生を意味する

生駒: 3.11以前から常日頃、私たち日本人は、いま一度原点に立ち戻り多くのことを考え直す時期に来ていると思っていました。そんな折、日本の伝統工芸作家の方々や工房の方との出会いがありこの企画を実現することができました。

今回の展覧会タイトルにもなっている「WAO」には、和(WA)が生(O)まれるという意味が込められています。というのも、私は日本人が日本で物を作っている人を応援できなければ日本の物作りに未来はないと思っています。3.11以降、今まで以上に日本人が日本のアイデンティティを、もっと言えば「日本人探し」をしている。そんな最中に、あらためて自分たちの魅力、それによって生まれる感動をこの展覧会を通して感じてほしい。そして、自分たちが誇れる物をどんな形でもよいので見つけてほしいのです。あらためて日本(和)の再生、さらには日本人が自信を取り戻す機会になればと考えています。

■日本のモノが持つ品格と素養

谷川:伝統工芸と一言で言っても、昔のスタイルから現代に何を映し出せるか、そこが重要なポイントです。日本の“モノ”は長きにわたって使用できるものが多く存在しますが、それは“モノ”を進化させていくということでもあります。“モノ”と向き合いながら、“モノ”を育てていく。愛着を持って“モノ”と向き合える「品格」や「素養」をもともとプロダクトが持っている。

摩耗(まもう)するという言葉がありますが、草臥(くたび)れるのではなく、経年変化する。つまり、自分と共にモノも変わるというのは、作り手の魂が入っていることも意味します。

そもそも気を抜いたところがない、細部にまで気を遣うのが日本の物作りの特徴の1つといえるでしょう。そのモノと出会う瞬間から気を遣うというのは、日本人独特の文化。自分たちが誇れる物をこの展覧会で、この空間で見つけてほしい。沢山のひとたちの想いや価値観で、日本の伝統工芸の良さ、さらには日本の良さを盛り上げてほしい。それによって伝えられること、伝わること、そのメッセージを雄弁に伝えてくれるのは日本の“モノ”そのものだと確信しています。

■ラグジュアリーブランドから学んだこと

生駒:今回の展覧会では、ラグジュアリーブランドが日本の伝統工芸とコラボレーションした素晴らしい作品も展示しました。彼らが今私たち日本人に教えてくれるのは、物作りの原点、クラフツマンシップについてです。物の価値をきちんと格付けして、それにふさわしい状態で世の中にコネクトしていく。大量生産の限界にきている現代社会において、物作りの原点をあらためて考えさせられます。

日本の伝統工芸は「ラグジュアリー」だと思うのです。豊かでスピリットが込められている。繊細で美しく、美意識が働いている。まさに、新しいラグジュアリーの表現といっても良いでしょう。その美しいモノがどのようにしてつくられているのか、それを今再考すべき時期に来ていると思います。

谷川:物が溢れることが決して豊かなのではないと、世の中の人たちが気がつき始めた今、人々は賢く考え、必要に応じて長く使える物を選択する術を習得しています。良いものは値が張る。昔から受け継がれた技術を職人たちの手によってゼロから生み出される作業は気が遠くなるようなものです。そして出来上がった物には、ひとつひとつ魂がこもっている。伝統を受け継ぎながらも、常に革新的なことを繰り広げている姿勢はラグジュアリーブランドならではですね。

■コンシェルジュ付きショッピングで身近に体験

生駒:従来の展覧会とは違う、新しい視点、そして手法で魅せる必要がありました。ラグジュアリーで美しく、それでいて日本人の記憶をくすぐるようなポエティックなストーリー。それを表現できるのは、谷川さんしかいないと思いました。

展覧会の半分は、販売コーナーになっています。自分たちの生活のなかで生きるモノが沢山あるので、距離を感じずに手にとって実際に買ってほしいと考えたからです。よりわかりやすくするために、今回選者をたてて、それぞれが提案する日本の素晴らしさを見てもらえればと思っています。

谷川:選者が提案することで、コンシェルジュ付きのショッピングが堪能できるというコンセプトです。私たちの生活は、アートと暮らす距離が日々縮まってきていると感じていますが、これまで日本の伝統工芸には、モノはいいけれど伝わりにくい、そして敷居が高いというイメージが根付いていた。しかし、人は現物を目の前にし、直に触れることで気持ちが揺れ動く。手にとって、見たり触ったりすることで違った視点からビジュアライズしていく。これによって、モノの深い部分まで伝えられると思ったのです。日本人のDNAレベルで組み込まれている記憶に触れるような機会になればいいですね。【岩田奈那】

【展覧会情報】
クール・ジャパンメッセージvol.1 工芸ルネッサンス展覧会「WAO~記憶の森~」
会期:2011年8月4日(木)~8月28日(日)11:00~20:00
会場:EYE OF GYRE / GYRE 3F(東京都渋谷区神宮前5-10-1)

【トークセッション情報】
2011年8月27日(土)午後3時~4時 (EYE OF GYREにて)
出演:Tatz Miki、谷川じゅんじ、生駒芳子
内容:日本生まれの美しいものたち、繊細なものたち、世界に通じるラグジュアリーな世界―そんな視点で、伝統工芸の魅力を再発見する展覧会「WAO~記憶の森~」についてトークを展開。阿波藍染めの作家Tatz Miki氏が、藍染めの神秘について、クリエイションについて語る予定。
(c)MODE PRESS

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