■今までのやりかたでは生き残れなくなった百貨店

 1980年代、日本の百貨店市場は黄金期を迎え、売上も今の1.5倍を誇った。しかしその後様々な業態の小売ビジネスが生まれ、インターネットの急速な広がりと共にECビジネスも発展し、小売業は大打撃を受けることになる。大西氏は環境の変化をこう語る。

「百貨店が元気をなくしてしまった理由は、はっきりしているんですね。物品が急速に同質化して、どこでも同じようなものを買えるようになると、業績が悪化し人員削減をせざるを得なくなります。そうすると一番大事な店頭からのお客様情報が入ってこなくなります。お客様情報は外部のリサーチ会社に流れていき、自分たちはものづくりにも関わらないので、不動産貸しのようなビジネスになっていってしまいます。店舗販売の最大の強みである“おもてなし”に目が行き届かなくなり、最終的に収益力が下がってしまう。収益力が下がってくると今度投資ができない。投資ができないと、お客さんの次の期待に対するご満足が得られなくなるという悪循環が原因です。これを健康的な状態に戻さない限りだめだと思っているんです」

 そこで大西氏は次のような施策を打ち出しているという。

「まずは同質化から逃れるために、ものをつくるところからお客様の手に商品お渡しするまでの流れに私たちも関わろうとし始めています。例えばお洋服であれば、私たちでテキスタイルからつくる場合もありますし、お取引先とコラボレーションして先方独自のテキスタイルを活用してつくる場合もあります。いずれにしても流通の川上に逆上って相当入り込んでやっていかないと、独自性も生まれませんし、価格と価値のバランスも生まれません。この仕入構造改革は4年くらい取り組んでいるところです。あとは、お客様と丁寧なコミュニケーションをとれる販売力のアップです。お客様の潜在的なニーズを汲み取るために一対一でコミュニケーションをとれる人材の育成が重要ですね。サプライチェーンにおける生産性と販売の生産性、この両輪で現在進めているところです」