■不十分な発表内容

 今回、多くの科学者らは、ミトコンドリア交換を監修した米ニューヨーク大学(New York University)のジョン・ザン(John Zhang)氏から十分なデータが提供されていないと批判している。正式な学術論文ではなく要約説明だけにとどまっており、他の専門家らが検証するための生データも発表されていない。

 重要な問いの一つは、「リー症候群」と呼ばれる遺伝性の神経系障害をもたらす母親のミトコンドリアDNAが、正確にはどれくらい息子に受け継がれたかということだ。ザン氏はこれを約1%と見積もっているが、提示された証拠は不十分だ。

■規制の回避

 多くの科学者らは、今回の発表を医学の画期的成果として称賛した。だが中には、警鐘を鳴らす専門家らもいる。

 オランダ・マーストリヒト大学(Maastricht University)ゲノムセンターのベルト・スミーツ(Bert Smeets)所長は、米国内の規制を回避するために、治療活動自体をメキシコに移動させたことが「懸念事項の一つだ」と指摘する。規制の枠組みは「診療現場への導入を保護するだけでなく、治療後に誕生する子どもの経過観察も保証するものなのに」とスミーツ所長は述べた。

 また、擁護派からさえも、この前例が「かつて『幹細胞ツーリズム』でみられたように、他の研究グループの追随を促す危険性がある」と警告する声も上がっている。(c)AFP/Marlowe HOOD