若者が集まる「老舗商業施設」の新しいかたち
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【9月7日 東方新報】中国・河南省(Henan)鄭州市(Zhengzhou)の老舗商業施設「亜細亜商場」は、かつて国旗掲揚や古箏の生演奏など、格式あるサービスで知られた存在だった。その後、経営破綻を経て長く閉鎖されていたが、2023年に「亜細亜卓悦城」として再生し、今では若者を引きつける仕掛けが満載の現代的なショッピングモールへと生まれ変わっている。現在は婚活イベントや賞金付きの歌唱コンテスト、ファンイベントなどを通じて、都市の若い世代の「居場所」を目指している。
企画責任者の剛雲鵬(Gan Yunpeng)氏は、「商業施設を単なる物販の場ではなく、『滞在したくなる場所』として設計している」と語る。吹き抜けには椅子やテーブルが各階に配され、来場者が長時間過ごせる空間づくりを重視。LEDスクリーンではアイドルイベントや推し活企画が日替わりで流れ、SNSとの連携も図る。
北京市や上海市でも、老舗商業施設の再生が進む。北京友誼商店では屋外芝生やカフェを設けて市民の憩いの場とし、上海華聯商厦は「百聯ZX」へとリニューアル。アニメ文化や飲食・交流を中心とした空間に変貌した。
全国の商業施設は今、単なる買い物ではなく、「どう滞在時間を延ばすか」が競争の鍵となっている。
■商業施設が「体験」で人を惹きつける時代
亜細亜卓悦城では、歌やダンスのパフォーマンス、観覧コメントが流れるライブ配信、来場者参加型の抽選イベントなど、視覚・聴覚・参加を組み合わせた仕掛けが随所に施されている。夜には屋外にステージを設置し、会社員がストリートパフォーマンスを披露することもある。
客が滞在すれば購買力は自然と高まるという考えのもと、施設内には常時300脚以上の椅子を設置。人びとが思い思いに過ごせる「居場所」を用意している。
この商業施設は駅直結で、周囲に多くの競合店がある中、演出と導線で差別化を図る。新入生や若手社会人など、都市に馴染みの薄い層にとって「立ち寄りやすく、滞在しやすい」存在となっている。
27歳の王斌(Wang Bin)さんはイベントやSNSプロモーションを担当しており、「今は施設の見た目や規模よりも、どんな体験を提供できるかが重要だ」と感じている。たとえば歌唱コンテストでは、出場者に「アイドル風」のキャラ設定を付けたり、観客に評価シートを配って一体感を演出するなど、まるでバラエティ番組のような仕掛けを取り入れ、SNSでの話題化も狙っている。
■「憩い」と「共感」が消費を支える
亜細亜商場は、かつても「スマイルサービス」「顧客第一」の姿勢で一世を風靡した。再生した今も、その精神は受け継がれている。大晦日の夜、寒さで行き場のない学生のために店を開放し、店舗の鍵をかけずに人びとを受け入れたという。
友誼商店では、かつて外貨専用で高級品を扱っていたが、今は親しみやすさが売り。ブランドリユース店「超級転転」は、照明やレイアウトを抑え、居心地を重視。商品の価格はスキャンですぐ確認でき、過度な接客もない。試せるCCDカメラやゲームカセットが並び、「人にやさしい店舗」とSNSで好評を得ている。
23歳の劉娜(Liu Na)さんは仕事帰りに友人とクラフトビールバーに立ち寄り、雑貨や中古家電を気ままに眺める。「広すぎる商業施設は逆に疲れる」と話すように、適度なスケール感が受け入れられている。
亜細亜卓悦城は2万平方メートルと小規模だが、そのぶん回遊しやすく、飲食に特化。店の7割が飲食店で、価格帯は学生でも手が届く水準に抑えられている。食材の一部は共同仕入れでコスト管理され、商場側がSNS運営やプロモーションを支援。売上不振の店にはメニューや店構えの改善提案も行う。
■「物」よりも「感情」を買う時代へ
22歳の王佳(Wang Jia)さんは、月に1度友人と商業施設に集まり、ライブを観て過ごす。現在は親と同居中で、ひとり暮らしに向けて貯金をしているが、商業施設でのひとときが「都会生活の中の小さな逃げ場」になっているという。
北京・王府井の「喜悦ショッピングセンター」は、今やアニメファンの新拠点になっている。地下にはキャラクターグッズ店やコスプレイヤーが集まり、推しを通じて知らない者同士がつながる。
ある母親は中学生の娘と一緒に出店し、「最初はキャラも区別できなかったけど、今は一緒に推し活している」と語る。グッズの高さに戸惑っていたが、今では値切りもせず、「子どもたちが笑顔になるなら」と受け入れるようになった。
■消費は「分化」の時代に
アニメやゲームのグッズは生活必需品ではないが、「今しか買えない、あなただけのもの」として若者に受け入れられている。リアル店舗ならではの即時性や、限定アイテムの交換・体験型演出が強みだ。
上海交通大学(Shanghai Jiao Tong University)安泰経済与管理学院の余明陽(Yu Mingyang)教授は、「消費は今、個性・細分化・精緻化の時代に入っている」とし、商業施設も『誰に何を届けるか』が問われていると指摘。日本の社会デザイン研究者である三浦展(Atsushi Miura)氏も「喜びや共感、悲しみすら受け入れる店が、人の心を動かす」と述べる。
ある大学生は、「商業施設はモノを買う場所から、都市の温度や文化を映す場所になっている」と話す。「スポーツや芸術と融合した空間が、日常を豊かにしてくれる」との声もあった。(c)東方新報/AFPBB News