中国、具身型AI時代に本格突入 ロボットが暮らしの中へ
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【4月16日 CNS】パンチを繰り出し、腰をひねり、720度回転ジャンプ。走って階段を駆け上がり、百段を超えても止まらない。清掃、消毒、巡回を24時間休まずこなす——。今、中国では「具身型AI(エンボディド・インテリジェンス)」を搭載したロボットがボクシングジムや森林保護区域、公園といった日常空間に次々と登場しており、トレーナーやパトロール隊員のように人々の生活に溶け込みつつある。
北京市の玉淵潭公園では、緑に囲まれた園路を小さな「戦車」のようなロボットが走り回っている。これらは消毒・害虫駆除用のロボットで、緑地の維持管理を効率的にこなしている。公園の韓凌(Han Ling)副園長によると、これは「具身型AI+造園業」の組み合わせの一例だという。
先ごろ閉幕した中国の「両会(全国人民代表大会と政治協商会議)」でも、具身型AIは大きな注目を集めた。具身型AIとは、物理的な「身体」を持つAIのことで、猫や犬のような動物型、一般的な人型、あるいは映画の『トランスフォーマー(Transformers)』の「オプティマスプライム」ようなトラック型など、さまざまな形を取ることができる。
3月末には2025中関村フォーラムが開幕した。中国の科学技術イノベーションを世界とつなぐ国家レベルのプラットフォームとして、2007年の創設以来このフォーラムは、中国の最新科学技術の成果を世界に発信する舞台となってきた。今年のテーマは「新しい生産力とグローバルな科学技術協力」。業界関係者によれば、今年も具身型AIが重要なトピックとして注目される見通しだ。
「2025年は、中国が具身型AIの商用化に本格的に踏み出す『元年』になる」と語るのは、ロボット研究歴20年以上の中国科学院自動化研究所の研究員・趙暁光(Zhao Xiaoguang)氏。彼は、中国は具身型AI時代へ大きく進もうとしており、今後10~15年以内に、多くの一般家庭が具身型AIの「アシスタント」を持つ時代が到来すると見ている。
現在、中国各地で具身型AI産業の成長が加速している。北京にはAI関連企業が約2400社あり、2024年には北京におけるAIの中核産業の規模が3000億元(約5兆8668億円)を突破した。浙江省(Zhejiang)湖州市(Huzhou)には、同省初となる具身型AI専門の産業パークも開設され、同市だけでロボット関連企業が約30社集積、過去3年間の総投資額は60.6億元(約1185億996万円)に達している。
3月12日、北京では人型ロボット革新センターが、世界初となる「一つのAIで複数の能力と複数のロボットを制御可能」な汎用具身型AIプラットフォーム「慧思開物」を発表した。同センターの熊友軍(Xiong Youjun)総経理は、「具身型AIはまだ発展初期段階にある」としたうえで、「実用的なシステムとして統合し、現場で活用できるようにすることが今後の課題だ。「慧思開物」はそのための重要な一歩だ」と語った。
現在、中国では家庭での利用を視野に入れた人型ロボットの開発も進んでいる。北京市朝陽区では、ある企業がロボットに「皮膚」を持たせ、深層学習によって200種類以上の表情を使い分け、さらに中国語・英語・日本語といった多言語に対応させている。その開発を担う北京清飛科技の技術ディレクター・李孟偉(Li Mengwei)氏は、「感情表現ができれば、より人との距離が縮まる」と語る。
このような動きは福祉分野にも波及している。最近、国際電気標準会議(IEC)は、中国主導で制定された介護ロボットの国際標準を 正式に採択した。この基準は高齢者の身体的・行動的特徴を踏まえて設計されており、設計・製造・検査・認証といったあらゆる工程のベンチマークとなる。李氏は、「高齢者を丁寧にケアするだけでなく、人としての温もりも届けたい」と話している。
湖州のロボット企業「火箭派科技」の創業者・程巍(Cheng Wei)氏は、「最終的な目標は、ロボットが家庭に入り込み、人間の生活空間に自然に溶け込むこと。人と同じ道具を使いこなして、多くのタスクをこなせる存在にすることだ」と語る。中国の具身型AI産業は、明確な目標を持って発展しており、産業の転換を促すとともに、新しい消費スタイルをもたらすことが期待されている。(c)CNS/JCM/AFPBB News