【1月13日 東方新報】営業を24年間続けてきたスターバックス(Starbucks)上海新天地店が2024年12月に正式に閉店した。「時代の終わり」「青春の終幕」など、感慨深い声が相次いだが、閉店の背景には市場の変化、業態の見直し、賃貸契約の終了、戦略の転換といった複雑な要因が絡んでいる。この出来事をきっかけに、中国国内のコーヒー市場の競争が一層激化していることが浮き彫りになった。

 ここ数年、中国のコーヒー市場は「瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー、Luckin coffee)」や「庫迪珈琲(Cotti Coffee)」「幸運咖(Lucky Cup)」といったチェーンブランドの急速な拡大が注目を集めている。これらのブランドは全国各地で勢いよく展開し、手頃な価格(例えば9.9元<約213円>のコーヒー)を武器に激しい価格競争を繰り広げている。一方で、低価格戦略により、中国全体でのコーヒー消費文化が徐々に根付くきっかけを作っている。

 上海市のような「コーヒーの都」では、これらの低価格チェーンの影響は比較的少ないものの、市場構造には新たな変化が生じている。2010年前後から店舗拡大を加速させた外資系ブランドのスターバックスやコスタコーヒー(Costa Coffee)、また2015年前後に「スペシャルティコーヒー」を掲げて登場した国内ブランドの「Seesaw Coffee」や「M Stand」も含め、新たな「コーヒー戦争」の後半戦に突入している。

 しかし、激しい競争の中で各ブランドが直面する課題は明白だ。競争が熾烈化する中、これらのブランドが新たな生き残り戦略を見つけられるかどうかが問われている。

 1杯あたり30元(約646円)前後の価格帯で展開するチェーンコーヒーブランドにとって、消費者が購入しているのはコーヒーそのものだけではない。特に「サードプレイス(第三の場所)」をコンセプトとするスターバックスでは、デザイン、配置、温度管理などの工夫を凝らし、高品質な空間とサービスを提供することで、社交の場としてのニーズを満たしている。こうした取り組みにより、年間4000~5000元(約8万6173円~10万7716円)を消費する「ダイヤモンド会員」と呼ばれる数十万人のコア顧客層を獲得してきた。

 しかし、リラックスした環境を提供することにはコストがかかる。低価格ブランドが市場を席巻し、「手軽さ・便利さ・コスパ」を重視する消費者が増える中、環境サービスに対する支払い意欲が低下し、結果的に中高価格帯のコーヒーブランドの立場が厳しくなっている。

 例えば、中国本土で20年以上展開してきたスターバックスは、価格競争には参加しないというこれまでの方針を転換し、2024年以降、ライブコマースや団体割引を通じて「3杯で49.9元(約1075円)」「2杯で39.9元(約859円)」「1杯で19.9元(約428円)」などの割引キャンペーンを実施している。また、クーポンの提供やセット商品の販売も行っている。この動きに対し、消費者からは「正規価格では絶対に買わない」との声も聞かれるようになった。

 こうした割引戦略は売上増加にはつながるものの、収益への影響は限定的だ。2024年9月29日時点の業績報告によれば、スターバックス中国の同店売上高は前年同期比で14パーセント減少し、取引量も6パーセント減少した。また、2024年の全体的な客足の減少が明らかにされている。さらに、最近では中国事業の売却を検討しているとの報道があり、スターバックスの広報担当者もこれを認めている。

 また、スターバックスと同時期に拡大を図った英国のコスタコーヒーも、業績悪化が顕著だ。2017年末には中国国内に449店舗を展開していたが、2024年までに100店舗近くを閉店し、現在は400店舗を下回る規模となった。微信(ウィーチャット、WeChat)で「Costa」と検索すると、「誰も話題にしない」「忘れ去られた」といったネガティブな言葉が目立ち、ブランドイメージの低下が顕著だ。

 市場の大きな変化を受け、各ブランドが戦略を見直すことは避けられない。

 例えば、「ピーツ・コーヒー&ティー(Peet's Coffee & Tea)」は消費者の動向に適応し、新たに低価格ブランド「Ora Coffee」を立ち上げた。ピーツ・コーヒーと同じコーヒー豆を使用しながら、商品価格は15~25元(約323円~538円)に設定され、プロモーション価格ではアメリカンコーヒーが9.9元で提供される。このブランドの全国初店舗は北京のショッピングモールにオープンしており、コンパクトなスペースとシンプルなデザインにより運営コストを抑えている。

 スターバックスは「地方市場への浸透」を強化し、2024年度には中国で790店舗を新規オープン、166の県レベルの市場に進出した。総店舗数は7596店舗となり、約1000の県レベル市場をカバーしている。また、地元文化に根ざした取り組みとして、地元アーティストの絵をカップに印刷したり、伝統的な文化をテーマにしたキャンペーンを展開するなど、多様化を模索している。

「Seesaw Coffee」や「M Stand」といった国内のスペシャルティコーヒーブランドも戦略を調整している。「Seesaw Coffee」は直営店舗にこだわらずフランチャイズを展開する戦略に切り替え、一方で「M Stand」はポップアップ形式の「M Stand Market」を立ち上げ、コーヒー以外の周辺商品を中心に新たな収益モデルを構築している。

 最終的に、コーヒーブランドが競争を勝ち抜くためには、製品や体験の差別化、長期的な成長戦略が必要不可欠だ。市場は依然として不確実性をはらんでいるものの、安易な価格競争に頼らず、独自の価値を再構築することが成功の鍵となるだろう。(c)東方新報/AFPBB News