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【05月15日 KOREA WAVE】ソウル・江南(カンナム)のある建物の屋上で6日午後、20代の男性が同い年のガールフレンドを殺害するという事件があった。悲劇であり、残念な出来事だ。しかし、殺人事件が毎日のように報道されるからだろうか、報道する記者も、ニュースに接する読者も、殺人事件が起きても、さほど大きな衝撃を受けなくなっている。

ただ、その容疑者が「名門大学の医学部学生」と報じられてから、世論は動揺した。そこに「大学修学能力試験(修能)で満点を取った」という情報も加わって、続報には「医学部学生」という言葉が前面に掲げられるようになった。オンラインコミュニティも関連する書き込みで溢れている。

医学部学生が事件に関与したという点だけで「毎日のように発生する殺人事件の一つ」から「韓国全体が注目するメガトン級の出来事」に拡大した。

◇「医学生」が示す韓国社会の断面

1年間に韓国で発生する成人の行方不明者数(申告件数)は6万人以上。2021年4月25日に失踪した20代の青年は医学部学生の「ソン氏」だった。国全体が気をもんでソン氏の無事帰還を念願した。しかし、行方不明から5日後、ソウル・漢江(ハンガン)で遺体で発見された。他殺ではなく事故死だった。にもかかわらず疑惑が相次いで真相究明を求める声が絶えず、政府高官が関与したのではという陰謀論まで出た。

同年4月28日から5月10日までの13日間、ポータルサイト・ネイバーに掲載されたソン氏関連ニュースは2458件に達し、オンラインコミュニティでもソン氏に言及する書き込みが相次いだ。行方不明になる3日前には平沢(ピョンテク)港の埠頭で、ある地方大学の3年生が労災で死亡する事故が発生しているのに、これを報じたのは事故後半月間で、地元メディア2社だけだった。

今年の韓国社会の断面を示す言葉も「医学部学生」だ。政府は来年から大学医学部の定員を2000人増員することにした。すると専攻医らは反発して辞職届を出し、医学部学生らは集団で休学届を出した。その数は1万1000人以上だという。ポータルや主要オンラインコミュニティで「医学部学生」で検索すれば、数え切れないほどの書き込みが表示される。医学部増員と関連した立場または政策によって、政府と政党の支持率に明確な変化が生じる。

大学に入学すれば、すでに「医学部学生のリーグ」が形成されるという。卒業後に開院したり、総合病院で勤務したりして稼いだ収益は「そのリーグの敷居」がいかに高いものか実感させる。国税庁の総合所得税申告分資料によると、医師・漢方医・歯科医師など医療業従事者の平均所得は2021年は2億6900万ウォン(1ウォン=約0.11円)。統計を始めた2014年より55.5%増加した。高所得の職業である弁護士の所得増加率に比べ約4倍高い。

医学部学生がガールフレンドを殺害した時、人々は怒りながらも「洋々たる前途があるのに、なぜそんなことをしたのか」と不思議がった。行方不明になった医学部学生が漢江で死亡して発見された時は「未来が明るいのにあまりにも残念だ」と悲しんだ。政府の医療改革案を非難し、医学部学生が集団で休学すると、人々は国民の生命と直結する医療システムの未来が揺らぐのではないかと心配した。医学部学生という言葉なしでは2024年の韓国社会を説明しにくい。

◇「失敗者」

医学部学生と対極にある概念は「低学歴」だ。将来の所得水準もかけ離れている。高卒以下のうち、所得上位25%の平均年俸は4000万ウォン程度。「上位25%」なのに、医師の平均所得の6分の1にも達しない。

階層は世襲され得る――この観点からこうした現象が分析されることもある。

作家チョ・グィドン氏の著書「世襲中産層社会」では「地方大生と高卒者は、勤労貧困層(仕事はするが所得があまりにも低くて貧しい状況から抜け出すことができない人)の主な供給源だ」と記されている。

「地方大学生と高卒者は20代集団内でも『周辺部』を形成する……(中略)…地方の20代が地理的な周辺部にとどまらず、卒業を前後して社会階層の周辺部になれば、一般の高卒20代は『大学にも行けなかった』失敗者と見なされ、透明人間のような扱いを受ける」(世襲中産層社会、96ページ)

医学部学生という理由だけで注目される世の中で、「透明人間」になった20代の青年たちが今、どんな未来を思い描いているか。こんな世の中が「良い社会」とは言えないということを、誰もが知っているはずだ。低学歴者が注目されればされるほど「先進社会」になるということも、みなが熟知しているはずだ。【news1 イ・スンファン記者】

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