【2月5日 AFP】イタリア・フィレンツェで、300年以上前に巨匠ミケランジェロ(Michelangelo)の子孫に「検閲」された、半裸の女性の絵の本来の姿を明らかにするためのプロジェクトが進められている。

 バロック美術を代表する女性画家アルテミジア・ジェンティレスキ(Artemisia Gentileschi)の作品「Inclination(素質の意味)」には後年、むき出しの乳房と股間を布で隠すように厚く絵の具が塗られた。

 数百年分の煙や1960年代に塗られたニスにより、肌の色はオレンジがかった淡い茶色に、ラピスラズリが使われた鮮やかな青空は灰色がかった緑色に変色している。

 ただ、描き足された分厚い絵の具を除去するのはリスクが大きすぎるため、画像診断技術を用いて、アルテミジアが意図していた本来の裸婦画の姿を探ることになった。すると、隠された裸体の詳細だけではなく、アルテミジア本人が制作過程で目や手の部分に加えた変更も判明した。

 この作品の数奇な来歴とも相まって、17世紀随一の女性画家であるアルテミジアへの関心が高まっている。特にセクハラ告発運動「#MeToo(私も)」後においては、その才能と自立心、劇的な人生とともに再評価されている。

■隠された肉体

「Inclination」には雲に座る裸の女性が描かれており、天性の才能や情熱が表されている。ミケランジェロのおいかめいの息子が発注したもので、アルテミジア本人がモデルだと考えられている。

 発注した人物は、ミケランジェロの功績を讃えるため、フィレンツェ(Florence)にあったミケランジェロの家を美術館兼邸宅に改装した。「素質」は美術館のために描かれた15連の天井画の1枚。

 その技術が評価され、アルテミジアには他の男性画家の3倍の報酬が支払われたとされる。

 この依頼に取り掛かる直前、当時17歳だったアルテミジアはローマで同じく画家だった父の仲間にレイプされた。

 その裁判では証言が真実であることを確かめるため、アルテミジアは拷問を受けた。最終的に加害者は有罪となった。

 絵の完成から約70年後、禁欲主義的なミケランジェロの子孫が天井画を問題視した。妻や子どもへの悪影響を恐れたこの子孫は、高名なトスカーナ人画家フランチェスキーニ(Baldassare Franceschini、別名ボルテラーノ<Il Volterrano>)に修正を依頼した。

 フランチェスキーニは胸の上に薄地の布を描き、股間の上には厚地の布を描いた。

 修復士のエリザベス・ウィックス(Elizabeth Wicks)氏は「絵が検閲された頃にはアルテミジアがすでに亡くなっていたと思いたい。快く思わなかっただろうから」「われわれも良くは思ってはいないが、修正はこの絵の歴史の一部だ」と語った。(c)AFP/Alexandria SAGE