■ヒトラーよりひどい

 マムートさんはソ連時代の迫害をよく覚えている。技術者だった父親はモスクワで比較的平穏な生活を送っていたが、反ユダヤ主義による粛清が及ぶおそれが出てくると、急いでウクライナに舞い戻った。

 ゲルシュタインさんは、兄や姉はいくら優秀な成績を収めても「(ユダヤ系の)名前のせいで」高等教育を受けることができず、職場でも昇進できなかったと振り返る。

 だが、ウクライナがソ連から独立してからは、そうした状況は大きく改善されたと話す。「ソ連時代の差別はとんでもなくひどいものでしたが、今はもう差別を受けることはありません」

「わが国の大統領が誰かを見れば、よく分かります」。ゲルシュタインさんは、ウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領がユダヤ系ウクライナ人であることに言及し、そう付け加えた。

「ウクライナにナチスはいません」とペトゥホバさんは憤る。

 ゲルシュタインさんは、プーチン大統領こそが「ナチ」の「略奪者」であり、「ヒトラーよりひどい」と糾弾した。

 プーチン氏に対するそうした言葉は、侵攻から7か月以上がたった今のウクライナでよく聞かれる。

 クリビーリフのラビ(ユダヤ教の宗教指導者)、リロン・エデリ師は、キーウ近郊のブチャ(Bucha)やイルピン(Irpin)、そして最近では東部イジューム(Izyum)で発見された集団墓地を引き合いに出し、ロシア軍の残虐行為をナチス・ドイツのホロコーストになぞらえた。

「違うのは、殺されるのがユダヤ人だけではなく、すべてのウクライナ人であることです」 (c)AFP/Joris FIORITI