【7月22日 AFP】ロシアの支配下に置かれているウクライナ南東部の都市メリトポリ(Melitopol)で、ロシアが設置した当局が同国のパスポート(旅券)発行を開始した際、2児の母であるオレシャさん(31)は迷わず申請を決めた。

 メーキャップアーティストのオレシャさんは、幼い息子を抱きながらAFPの取材に応じ、「私たちは皆、ロシアで暮らすことになると思う。だからロシアのパスポートが必要になる」と語った。

 AFPは、ロシア国防省が主催する厳重な監視下で行われたプレスツアーに参加し、ロシア語話者が多いメリトポリで市民の声を聴いた。報道陣は市内で自由に移動することも、監視を受けずにインタビューすることも許されなかった。

 ロシア旅券を申請する数十人の列に加わったオレシャさんは、これまでは子どものおむつを買うお金もないことが多く、「ウクライナでの生活は厳しかった」と話した。ロシア当局の下でなら、より良い暮らしができるだろうと期待している。

 自分自身も家族もロシア人だと認識しているオレシャさんは、小学生の長男にとってウクライナ語での勉強は難しく、「あの子にとっては、これからは楽になると思う。私たちの誰もウクライナ語を話さないから」と述べた。

 メリトポリ市を含むザポリージャ(Zaporizhzhia)州内各地には、「住民の未来は住民自身が決める」という、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の公約が掲示されている。ロシアが設置した当局は、同国への編入の是非を問う住民投票を今秋にも実施したいとしている。

 オレシャさんは数週間のうちに、ロシアに忠誠を誓うことになる。プーチン大統領の写真が飾られ、ロシア国歌が流れる小さな部屋で、ロシア旅券と憲法が記された文書を受け取る予定だ。

 年金生活者のダミルさん(65)もオレシャさん同様、ロシア側の措置を大いに歓迎している。ロシアが永続的にとどまる方針で同地に入った以上は、同国の旅券を取得する必要があると考えている。

「(ロシアが)あのファシストたちを打破すると決心すれば、何もかもソ連時代のように平穏になるだろう」というダミルさんの言葉からは、ウクライナ当局を「ナチス」や「ファシスト」と形容するロシア側のプロパガンダの影響がうかがえた。