【4月13日 AFP】素粒子の一種「Wボソン」が、理論値を著しく上回る質量を持つとする研究論文が7日、発表された。約10年に及ぶ精密な測定に基づくもので、宇宙の仕組みに関する理解の根幹を揺るがす研究結果だ。

 宇宙を理解する際の基礎となっているのは、素粒子物理学の「標準理論(Standard Model)」だ。標準理論は、宇宙の最も基本的な構成要素とそれらをどのような力が支配しているかを最もよく説明する科学的理論とされる。

 自然界に存在する基本的な四つの力(相互作用)の一つ、「弱い力」を媒介するボース粒子(Boson、ボソン)のうち電荷を持つのがWボソンで、標準理論の柱の一つとなっている。

 だが、米科学誌サイエンス(Science)に掲載された最新の論文によると、これまでで最も高精度なWボソンの測定値は、標準理論の規則と真っ向から相反する。

 研究を主導した米デューク大学(Duke University)の物理学者、アシュトシュ・コトワル(Ashutosh Kotwal)氏によると、今回の結果は科学者400人以上が10年あまりを費やし、「約450兆回の衝突のデータセット」を記録し、詳細に分析して得られた。粒子衝突実験には、米フェルミ国立加速器研究所(Fermi National Accelerator Laboratory)のテバトロン加速器(Tevatron Collider)が使用された。

 テバトロン加速器を使った「CDF(Collider Detector at Fermilab)衝突実験」の研究チームによると、Wボソンの質量を0.01%の精度で測定できた。これは従来の測定実験の2倍の精度だという。

 そして、Wボソンの質量の測定値と標準理論の予測とでは、実験誤差を表す標準偏差(シグマ)の7倍のずれがあることを明らかにした。

 欧州合同原子核研究機構(CERN)の世界最大の粒子加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」で研究を行っている英ケンブリッジ大学(Cambridge University)の粒子物理学者、ハリー・クリフ(Harry Cliff)氏は、「まぐれでシグマの5倍の結果が得られる確率は350万分の1だ」と説明する。

「この結果が本当だとすると、何らかのシステム的な偏りや計算方法の誤解でもないのであれば、これは大変なことだ。これまでに未発見の新たな宇宙の基本構成要素が存在することを意味するからだ」とクリフ氏は述べている。(c)AFP/Pierre Celerier and Daniel Lawler