■アイデンティティー

 ラシード通りは1980年代、昼はさまざまな商売でにぎわい、夜には遊び場として人気の場所だった。アブドルカリームさんが今修理を手掛ける時計は1日5個といったところだが、80年代当時は毎日数百個を売ったり直したりしていた。

 アブドルカリームさんは今でも、通りにあった有名な劇場、映画館、コーヒーショップなどを覚えている。「閉まることなく、ずっと営業していたんだ!」

 通りには他にも多くの時計修理店があった。だが1990年代に国際的な経済制裁が科されると、よそは店をたたみ始めた。

 2003年に米国主導の有志連合がイラクに侵攻、フセイン政権が崩壊すると宗派間抗争のパンドラの箱が開き、国内は混乱。ラシード通りでも自動車爆弾が爆発した。

 昨年もタハリール広場(Tahrir Square)付近でデモ隊が大規模なキャンプを張り、ラシード通りは数か月にわたって封鎖された。だが、アブドルカリームさんは修理を続けた。

 周辺にあった古着屋や本屋はなくなり、倉庫や自動車部品販売店になった。だが、アブドルカリームさんは「この店は50年間、変わっていない。だから人々はここに戻ってくる」と話す。「それがこの店のアイデンティティーを保っている」  (c)AFP/Salam Faraj and Habib Haj Salem