■迅速な国外拠点戦略

 中国発の動画共有アプリ「ティックトック(TikTok)」は、米国で安全保障上のリスクがあると非難され、さらに株式所有をめぐる論争で打撃を受けた。だが、センサー・タワーのデータによると、そうした否定的な評判の嵐にもかかわらず、今年これまでに世界で約8億回のインストールを達成している。しかもこれはインドで使用禁止された上での数字だ。

 インド政府は今年、中国・インド間の国境地帯で死者が出る衝突が発生したことを受け、中国企業が関与するアプリ200種類以上を禁止した。ティックトックもブラックリストに加えられている。

 しかし現在、ティックトックは大人気にもかかわらず、米国でサービスを継続するための交渉に難儀している。この様子を見て、それほど知名度の高くない後発の中国アプリ企業は学んでいる。

 例えば6月にインドで禁止されたシェアイットは、すぐさま新たな市場に向かった。同社によると、南アフリカで月間2000万人のアクティブユーザーを獲得しており、さらに世界で人口が4番目に多いインドネシアへの進出を狙っている。

 また中国アプリ企業各社の間では、国外に拠点を置く動きもある。早期に欧米企業と提携すれば、中国製アプリに警戒心を抱く各国政府によるボイコットの可能性を打ち消せるかもしれない、と専門家らはいう。

 ライキーを保有するシンガポール系IT企業「ビゴ(Bigo)」の広報部担当者は、同社は米国、シンガポール、インドを含む世界数か国にサーバーを持っているが、「中国本土と香港にはサーバーを持っていない」とAFPに語った。

 中国製アプリをめぐるプライバシーやサイバーセキュリティー、中国政府による潜在的な影響への懸念はどれも激しい議論となっている。中国のアプリ開発企業は、各国政府や消費者の長期的信頼を得るために更なる努力を迫られるだろう。

 香港中文大学(Chinese University of Hong Kong)のセブリーヌ・アーセン(Severine Arsene)氏は、中国製アプリに疑念が向けられていることで「ビジネス環境が変わり、今とは非常に異なる事業やデータローカライゼーション戦略の採用を迫られる」可能性があると指摘する。例えば、本社と技術開発部門を「より安全な」地域に配置することや、データ処理部門を複数の拠点に分散させることだ。

 シンガポール金融大手ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(United Overseas Bank)のエコノミスト、ホー・ワイ・チェン(Ho Woei Chen)氏によると、中国政府は昨今の米印両政府との対立にもかかわらず、「技術分野における野心」をあきらめる兆候は一切見せていない。

 さらに同氏は、たとえ中国が今後、技術分野のグローバルサプライチェーンから切り離されたとしても、それが「中国企業に能力の向上と強化」を迫るという意図しない結果を招き得ると指摘。そして巨大な国内市場を支えに、「彼らは生き残るだろう」と話した。(c)AFP/Beiyi SEOW