■「プーチン氏にとって宇宙探索の優先順位は低い」

 だがイオニン氏は、この計画に懐疑的だ。「スペースXは安価なエンジンを使い、部品のほぼすべてを自ら製造することでコストを抑えている」「ロシアが同じことをやるには、製造工程を変えなければならなくなる」という。

 ロシアの宇宙産業は「当事者が認めるより、はるかに悪い状況にある」。広い意味では、スペースXのような競合相手が現れると、「発奮するきっかけ」になるはずだとイオニン氏は話す。

 10年前のロシアは、世界中の打ち上げ事業の大多数に関わっていた。だが今日では、中国やスペースXが競争に参入し、状況は様変わりしている。

 イオニン氏は、ロシアの宇宙産業は「旧ソ連時代の技術を大幅に進化させずに」細かい部分の修正のみに力を入れて新しい技術を取り入れてこなかったとして、ロシアが後れを取らないようにするには、宇宙部門で独立した政府機関が新たな戦略を開発していく必要があると話す。

「米国の(ドナルド・)トランプ(Donald Trump)大統領は、宇宙政策の目標を定めるため国家宇宙会議(NSpC)という機関を復活させた。われわれも同じことをする必要がある」と同氏は主張する。

 だが、専門家の間には、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が宇宙探索に対して政治的意思を持っていないとみる向きもある。プーチン氏が重点を置いているようにみえるのは、軍事力の強化、とりわけ極超音速ミサイルの開発にロケット科学を利用することだ。

 宇宙問題に関する独立専門家ビタリー・エゴロフ(Vitaly Yegorov)氏は、「プーチン氏にとって、国威発揚に関して宇宙探索は優先事項ではないのだ」と指摘する。

 イオニン氏の考えでは、ロシアの宇宙計画を再び活発にするには国際協力が必要だ。

 ソベズベルジェ氏は、国際的な有人火星探査は「ロシアがその技術を共有することで、地位を挽回する契機となる可能性がある」と語る。

 だが、こうした宇宙飛行計画の経費は膨大になるため、今や打ち上げの数で世界第2位の宇宙大国となった中国を引き入れる必要があるだろう、とソベズベルジェ氏は言う。

 とは言え、その見込みは薄いとして、同氏は「米議会が中国との宇宙協力を拒否する」ことを理由に挙げた。(c)AFP/Romain COLAS