■立ち上がる女性たち

 エレナさんは再び自分で何とかしなくてはと思い、娘たちと一緒に、メキシコ市北部アスカポツァルコ(Azcapotzalco)地区にある大学で開かれている護身術教室に申し込んだ。

 今年から始まったこの教室には、自分自身と子どもを守りたい母親、夜の一人歩きが怖いという学生、公共交通機関で痴漢に遭うことにうんざりしている社会人といったさまざまな女性が参加している。

 エレナさんは「女性は攻撃から逃げ出すほどの体力がないと思われがちだ。しかし、反応の仕方によるということをこの教室で学んだ」と話す。

 教師のベアトリス・カマチョ(Beatriz Camacho)さん(50)は地下鉄で何度も痴漢の被害に遭っており、どうにかしたいとの思いからこの教室に申し込んだ。「前回遭遇した時は、痴漢を電車から蹴り出し、駅に駐在する警察官に引き渡した」

 アスカポツァルコ地区が提供する護身術教室は6週間にわたり、参加費は無料。この半年で5回開催されており、ボクシングや武術の他、かばんや傘、体の一部を武器にする方法も学ぶことができる。市内の他の地区でも同様の教室が開催されている。

 メキシコにおける女性に対する暴力の多さは驚くほどだ。当局の統計によると、メキシコ女性の3人に2人は何らかの形の暴力の被害を経験している。

 メキシコ市では今年、警官らが17歳の少女をパトカーの車内でレイプした事件など複数の悪質な事件がきっかけとなり、女性に対する暴力のまん延に抗議するデモが盛んに行われている。あるデモで、メキシコ市の治安長官がデモ隊からピンク色のグリッターを浴びせられて以来、これらのデモは「グリッター・レボリューション(Glitter Revolution)」と呼ばれている。

 メキシコ市初の女性市長であるクラウディア・シェインバウム(Claudia Sheinbaum)氏は11月、「女性に対する暴力への警戒」を宣言し、警備体制強化、対策本部設置などの緊急措置を実施する予算を求めた。メキシコでは2007年以来、同様の警戒宣言が32州で出されている。

 だが、アムネスティ・インターナショナル・メキシコのタニア・レネアウム・パンジ(Tania Reneaum Panszi)事務局長は、女性に対する暴力防止には、根深い家父長制と男らしさを誇示する文化の変革が必要だと指摘している。(c)AFP/Natalia CANO