■銃声に、ささやきに耳を澄ます

 フォレンジック・アーキテクチャーの作品では、アートと建築が基本的な構成要素となっている。これは、調査プロセスで用いるツールについてだけでなく、作品全体の基本構成についても言えることだ。

 バイツマン氏は言う。「多くの証拠は活動家の動画の中にある。だからこそ、映像を扱うスタッフには、正確であること、また、こうした証拠を編集し、組み合わせる方法を理解していることが求められる。トラウマ(心的外傷)となっている出来事を思い出してもらうために、精緻な建築モデルをつくる必要が出てくる場合もある」

「調査プロセスでは、耳を澄ますことが中心的な仕事になることもある。銃声に、発言に、ささやきに耳を澄ます。それには、音響に関して(ヨルダン人の著名な音響アーティスト)ローレンス・アブ・ハムダン(Lawrence Abu Hamdan)レベルの専門知識が必要になる」

 フォレンジック・アーキテクチャーの映像作品は、多くの点で、フランスの映画監督ジャンリュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)が1960年代末から70年代初めにかけて、映画制作グループ「ジガ・ヴェルトフ(Dziga Vertov)集団」と組んで発表した作品の精神を継承している。

 フォレンジック・アーキテクチャーの作品のように、当時のゴダール作品は、既成秩序に異議を申し立て、主流メディアの話に別の物語を対置し、報道内容を再吟味することを意図していた。フォレンジック・アーキテクチャーのように、ジガ・ヴェルトフ集団は、意識的で、芸術言語を用い、もっと言えばそれを脱構築し、真理を追求していた。

 バイツマン氏はこう語る。「ゴダールと似ているところは、どんな政治問題も、対処するには相応の新たな形式が求められるということを認識している点だろう。ゴダールの時代であれば、それは映画という形式だった。今日では、私たちが浴びるように見ている膨大な映像をうまく処理し、理解するために、建築(という形式)が必要だ」

 バイツマン氏は、ターナー賞へのノミネートについて、自分たちの仕事が注目された点は歓迎するとしながら、「アートは真面目に扱われないことがある」とも指摘。アートスペースに展示されても、フォレンジック・アーキテクチャーの仕事の本質は変わらないと強調し、こう続けた。

「私たちの作品にとって重要なのは、それを公にすること、証拠を政治的なものにすること、そして、その証拠を闘争の、抵抗の一部にすることだ。その意味で、こうした証拠がより広範な人々の目に触れるように、さまざまな場で提示していくことがとても大切だ」

By Joseph Fahim

(c)Middle East Eye 2019/AFPBB News