【10月26日 AFP】イタリア・セリエA、ラツィオ(SS Lazio)の一部ファンが、ASローマ(AS Roma)のユニホーム姿となったユダヤ人の少女アンネ・フランク(Anne Frank)の写真を利用して反ユダヤ主義的な行為に及んだ問題は、数日が経過した現在も波紋を広げており、25日には新たな問題が発生して各チームが計画していたトリビュートイベントに影を落とした。

 ラツィオの過激ファン「イッリドゥチビリ(Irriducibili)」が同日のボローニャ(Bologna FC)戦への遠征を控えた中、敵地へ赴いた一部のサポーターは、スタディオ・レナート・ダッラーラ(Dall'Ara Stadium)の観客席でファシズムの曲として知られる「Me ne frego (意味:われ関知せず)」を合唱した。

 この日の試合では、ラツィオの選手たちが予定通りにアンネの顔写真の下に「ユダヤ人差別に反対」と書かれた文字がプリントされたTシャツを着て試合前のウオームアップに臨んでいたほか、各チームの主将や審判団が、子どもたちにイタリアのユダヤ人作家プリーモ・レーヴィ(Primo Levi)の「これが人間か(If This Is A Man)」のコピーを手渡していた。

 しかし、トリノ(Turin)で行われた王者ユベントス(Juventus)対SPALの試合では、観客席の一画でファンがピッチに背を向けてイタリア国歌を合唱。ローマ(Rome)では、クロトーネ(FC Crotone)戦に臨んだASローマのファンの一部が、チームを応援するチャントで音読をかき消すという場面があった。

 これらの動きに先立ち、同日にはラツィオのクラウディオ・ロティート(Claudio Lotito)会長がシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)に贈呈した花輪が、ローマ市内を流れるテベレ川(Tiber River)に捨てられているのが見つかった。

 同クラブのチームカラーと同じ青と白の花が、シナゴーグの入り口から消えていたりしていたという。伊紙コリエレ・デラ・セラ(Corriere della Sera)の報道によれば、ユダヤ人社会の若者が、「君たちにはユダヤ人の兄弟がいる」と書かれたロティート会長の言葉に反発して、花を投げ捨てたとされている。

 同会長はまた、ナチス・ドイツ(Nazi)のベルゲン・ベルゼン(Bergen-Belsen)強制収容所で1945年に亡くなったアンネが最初に送られていたポーランドのアウシュビッツ・ビルケナウ(Auschwitz-Birkenau)強制収容所へ、クラブとして毎年200人の若いファンを訪問させると発表した。

 ところが、同日にはロティート会長の真意が疑問視される電話の会話が録音されていたことが発覚した。地元日刊紙メッサジェロ(Il Messaggero)は、同会長がシナゴーグへの訪問について「仰々しく行う必要がある」と述べていたと伝えられた。

 録音された声の内容は、「ラビ(ユダヤ教指導者)代理がいるのか? ラビだけか? 彼らは役立たずだ。こんな状況だろう? ラビも代理も米ニューヨーク(New York)にいるのか…。いっそ仰々しくやってやろうじゃないか」と聞こえるとされている。

 ロティート会長はこれらの発言について否定しており、この会話が行われたとされるミラノ(Milan)からローマへの23日のフライトで隣に座っていた国内の民主党議員も、同会長を擁護している。

 リーグ首位のナポリ(SSC Napoli)とわずか勝ち点3差の4位につけているラツィオは、サポーターによる人種差別のチャントで、すでに本拠地スタディオ・オリンピコ(Stadio Olimpico)のスタンドの一部が2試合にわたり閉鎖となっている。

「15人ほどの愚か者の振る舞い」でクラブが処分を受けるのは「間違いだ」と主張しているロティート会長は、地元ラジオ局に対して、「騒動を起こすためにスタジアムへ足を運んでいるこれらの人間に、われわれが人質にされている状況で、チームから勝ち点を奪うのは間違いだ。犯罪者を取り締まって罰を与えるべきだ。起きてしまったことで、チームの心理に影響が及ばないことを願っている」と述べた。

 伊警察は問題が起きた22日の試合で録画された映像を調べた結果、13歳をはじめ3人の未成年者を含めた16人の容疑者を特定している。(c)AFP/Emmeline MOORE