■笑顔一つで支払いが完了

 北京(Beijing)にある世界遺産、天壇(Temple of Heaven)では今年に入り、トイレットペーパー泥棒の摘発のため、公園管理当局が施設内のトイレに顔認証装置を設置した。短期間のうちに繰り返しトイレットペーパーを取りに行くと、機械が認識し、「しばらく経ってからお越しください」とくぎを刺される。

 北京師範大学(Beijing Normal University)でも、学生寮に顔認証スキャナーが設置された。国営新華社(Xinhua)通信が伝えた大学関係者の話によると、学生以外の立ち入りがないかを確認する他、「学生らの行動の監視にも役立つ」という。

 金融機関の現金自動預払機(ATM)ではキャッシュカードの代わりに顔認証が使用され始めており、また旅行業界やレジャー産業でも導入する傾向がみられる。中国南方航空(China Southern Airlines)は今年、この流れに乗り、搭乗券を徐々に廃止している。

 ケンタッキーフライドチキン(KFC)の中国法人は、笑顔ひとつで支払いが完了する「Smile to Pay」のシステムを導入。中国の電子取引大手アリババ(Alibaba)のオンライン決済サービス「アリペイ(Alipay)」に接続した顔認証システムを使って客が支払いを行えるようになった。

 上海では、路上を徘徊する高齢者や精神障害者を特定して家族の元に帰すため、顔認証システムが使用されている。

 顔認証システムの推進は、より広範なハイテク技術戦略のほんの一部にすぎない。中国政府は2030年までに人工知能(AI)分野で世界の首位に立つ計画を7月に発表。国内に1500億ドル(約17兆円)規模のAI産業を構築するとしている。

 上海大学(Shanghai University)法学部教授のユ・リン(Yue Lin)氏によると、こうした傾向は主にアリババや百度(Baidu)といった国内のIT企業によって推進されている。

 ユ氏は、市民の顔写真や情報の誤用について懸念があるのはもっともだとしながらも、その悪影響ばかりを指摘するのは時期尚早だと警告する。「警察や司法といった当局は変わっていないが、その力は明らかに強まっている」とユ氏は述べ、「それは中国に限らず、世界中で同じことが起きている。同じことでも中国人にとってはよいことが、米国人にとってはとんでもないことかもしれない」と語った。(c)AFP/Peter STEBBINGS