【7月27日 AFP】伊藤金政さん(73)は、妻の公子さんの介護を悪魔との戦いの毎日に例える。伊藤さんが愛した女性はいなくなってしまったかのようだ。公子さんは認知症を患い、今では食べることも、風呂に入ることも、トイレへ行くことも、1人ではできない。

「頭の中にデビルが潜んでるからね」。意味をなさない言葉を発する公子さんの横で、伊藤さんは人生を共に築いてきた女性のあまりに大きな変化をそう表現した。

 世界有数の長寿社会であり、急速に高齢化が進んでいる日本は、世界の医療に差し迫る危機の最前線にいる。認知症という時限爆弾が爆発するときに備え、政府には従来の枠組みを超える政策が期待されている。

 厚生労働省の推計によると現在460万人いる認知症患者は、2025年には高齢者の5人に1人に相当する700万人に達する。認知症の多くは、認知能力や感情の制御、社会的な行動などに問題が生じるアルツハイマー病だ。

 公子さんが最初に認知症と診断されたのは、54歳の時だった。それから15年。この病と向き合い、公子さんの介護をしてきた伊藤さんは今、ほぼ限界まで追い込まれている。

 公子さんにはもはや何が危険で何が安全かの区別もつかない。洗剤を飲んでしまったこともある。常に見張っていなければならない。

「毎日大変。すごく疲れちゃう」。神奈川県川崎市の自宅でインタビューに応じた伊藤さんはそう述べた。