【4月14日 AFP】サリー・アントニオさん(仮名、43)は夫と息子を警察に殺されて以来、3つの仕事の掛け持ちを余儀なくされ、疲れ果てている。政府による麻薬撲滅戦争が続くフィリピンでは、彼女のように出口のない貧困と苦悩にあえぐ「戦争未亡人」が次々と生み出されている。

 ロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領が進める未曽有の麻薬取り締まりによって、これまでに7000人もの人が犠牲になった。しかし、人権団体から「貧困層に対する戦争」と批判されるこの取り組みが、残された家族にどんな影響を及ぼしているかはほとんど語られてこなかった。

 それは半年ほど前のことだった。突然、麻薬捜査だと言って警察がアントニオさんの家に踏み込んできた。そして、ウエーターとして家計を支えていた19歳の息子と無職の夫を撃ち殺したのだ。

「殺されたのは夫と息子だけではありません。私自身も殺されたようなものです」。アントニオさんはAFPにそう語った。

 その日以降、彼女は残された5人の子どもと孫を育てていくため、仕事を増やさなければならなくなった。クリーニング、近所の人の雑務代行、地域の警備係といった仕事を掛け持ちしているために、1日2時間しか眠れない日もあるという。

「疲れ切って、手の痛みもひどいものだから、仕事を1日、2日休まないといけないときもあるんです」。アントニオさんは涙ながらに話す。「近所の人にお金を借りて回らないといけないし、食費は最低限のものです」

 心理学を学んでいた18歳の娘は、アントニオさんの夫の代わりに年下のきょうだいたちの保護者役を務めるため、大学中退を余儀なくされたという。

 今、アントニオさんが最も心配していることの一つは、心臓病を患っている11歳の息子の薬代だ。

「憤りしかありません。夫と息子はどうして殺されなければならなかったのか。私たちのような家族がなぜ犠牲にならなければならなかったの?」