【12月6日 AFP】シャイマさん(20)はイラク・モスル(Mosul)で4か月前、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に見つからないように、ウエディングドレスと化粧をした顔を黒い衣装とベールで隠し、新郎のアリさん(24)が待つ彼の家へと向かった。

 モスルがISに占拠されてから2年余り、多くの住民はISが樹立を宣言した「カリフ制国家」の厳格な規律に、自宅で隠れて抵抗している。

 シャイマさんとアリさんは自分たちの結婚式の様子を詳しく説明した。2人が現在暮らしているのは、イラク軍が10月半ばに大規模なモスル奪還作戦を開始して以来、大勢の人々が避難してきたハサンシャム(Hasansham)国内避難民キャンプだ。

「私は白いウエディングドレスを着て化粧をし、髪を結っていたけれど、自宅から夫の家までは、黒いニカブ(顔を覆うベール)とアバヤ(頭から爪先までを覆う伝統的な衣装)で全身をすっぽり隠して行った」とシャイマさんは言う。

 夫のアリさんは「家ではすべてのドアに施錠し、発電機をつけ、その音で音楽がかき消されるようにした。男性たちには外にいてもらい、その間に女性たちは室内で羽目を外すことができた」と語った。

 結婚パーティーはISが住民に課している規則に違反していた。ISは音楽や喫煙、男性がひげをそること、女性が顔を見せることなどを禁じている。

 アリさんは「自分の結婚式がこんなふうになるとは思ってもみなかった。本当はスーツを着てひげをそりたかった。友達にも私たちの結婚を喜んでもらいたかったし、車数台を連ねて妻と町中をパレードしたかった」と述べた。「結婚式は短かった。私たちは車で町に出掛けようかとも思っていたけれど、怖くなって何もできなかった」とシャイマさん。

 ひそかに執り行われた結婚式の写真には、ほほ笑むアリさんの顔に白いドレス姿のシャイマさんが両手を添えている様子が写っている。この写真は戦闘と混乱の中、モスルから逃げるときに持ってくることができた。

 こうした写真も禁じられているため、アリさんは自らが所有する印刷所のシャッターを下ろして店に閉じこもって現像したのだという。

■夕方になると屋根にアンテナを設置

 AFPが取材した人々の大半は、写真に撮られることや自分の名前をフルネームで明かすことを拒否した。モスルのIS支配地域で今も暮らす家族の身に危険が及ぶことを恐れているためだ。

 ISが住民たちを外の世界から隔絶するために通信衛星用アンテナの設置も禁じているため、テレビを見るためにやむを得ず危険を冒す住民もいる。ハサンシャム難民キャンプにたどり着いたアドナンさん(46)は、ISに古いアンテナを1つ渡したが、他に2つのアンテナを隠し持っていた。「毎日、夕方になると屋根に上ってアンテナを立て、テレビ番組を3時間ほど見ていたんだ」

 ハゼール(Khazer)に住むハラさん(35)は「隠れてたばこも吸っている。ドミノ(ゲーム)もやっていたし、携帯電話も使っていた」と話した。携帯電話のSIMカードも自分のブラジャーの中に隠していたと言う。「すべて秘密にしていました」(c)AFP/Rouba El Husseini