■「治癒はできないが、治療はできる」

 バイアー氏によれば、同プログラムが基づいているのは、子どもに性的な魅力を感じるのは医学的問題であって、その欲求が行動に移されなければ「犯罪ではない」という考え方だ。世界保健機関(WHO)も小児性愛を「性嗜好障害」と分類している。

 プログラムでは、患者は毎週2時間のセラピーを1、2年続ける中で、自分の欲求を行動に移したり児童ポルノを消費したりしないよう抑制するすべを教わる。さらに子どもが小児性愛犯罪の犠牲者となった場合にどれだけ傷つくか、被害者の立場になって考えることも学ぶ。そうすれば、子どもたちに手を出そうとする気持ちを制止できる可能性があるからだ。

 患者は希望すれば、自分のセラピストに対しても治療の間は匿名で通すことができる。またプログラム終了後にさらに継続してセラピーを受けることも可能だ。希望者には化学的去勢など薬物療法も提供している。北米やスイス、インドなど世界中の研究者らが、同プログラムに注目しているという。

 ドイツはカトリック教会の聖職者による少年への性的虐待スキャンダルで物議を醸した国の一つだ。にもかかわらず、同プログラムに対する反発がある。社会的な反発が強いだけでなく、医薬品業界でさえ小児性愛者に対する即効性の薬物の開発に消極的だと、バイアー氏は言う。

 しかし、シャリテ病院と共にプログラムを助成している子ども保護基金「ヘンゼルとグレーテル(Hansel and Gretel)」のジェローム・ブラウン(Jerome Braun)代表は、小児性愛犯罪の予防策は、犠牲者となり得る子どもたちへの幼稚園や学校での啓発だけで終わってはいけないと言う。「加害者になる可能性のある人々にも目を向けるべきだ。犯罪を防ぐことができた数だけ、子どもたちを救えるのだから」(c)AFP/Yannick PASQUET