■野球と恋に落ちた日

 野球に夢中になったきっかけについてスカリー氏は、「まだ9歳にもなっていなかった。ある日中国人のクリーニング店に行ったら、その店の窓にワールドシリーズのスコアが並んでいたんだ。それは1936年10月2日の試合で、ニューヨーク・ジャイアンツ(New York Giants)が4-18でヤンキースに惨敗した」と報道陣に語った。

「まだ少年だった私の最初の反応は、『あぁ、かわいそうなジャイアンツ』というものだったが、その時に私は野球と恋に落ちて、心からファンになったんだ。私の最後の試合は、2016年10月2日のジャイアンツ戦だ。私が最初に野球に夢中になった瞬間から、ちょうど80年後だ」

 スカリー氏はまた、その年代にメディアのはしりだったラジオに夢中になったという。

「まだ私が小さくて8歳くらいの頃には、ラジオしかなかった。それにラジオで中継されていたスポーツはカレッジフットボールがほとんどで、あとはボクシングのヘビー級王座決定戦でジョー・ルイス(Joe Louis)が戦った試合などが、たまに中継されただけだった」

「両親が持っていたラジオは、4本の脚がついたものだった。土曜日になると、私は枕と一緒にコップ1杯のミルクやらクラッカーやらを持って、ラジオの下に潜り込んでいた。そして枕を敷いてそれに頭を乗せ、スピーカーの真下に陣取った。すると聴こえてきた歓声に、すっかり心を奪われてしまったんだ。それはアナウンサーの声ではなく、観客の叫び声だった。まるでシャワーから流れてくる水のような音に鳥肌が立ち、『なんてこった。いままで聴いた中で最高の音だ』と感じたよ」

 こうした少年時代の経験が、スカリー氏の実況方法に影響を及ぼしている。

「実況の仕事に就いた時、私は再び歓声に魅了された。それで仕事を始めて以来ずっと、できる限り正確に素早くプレーを実況して、それからじっくり観客の叫び声を楽しむことを心掛けていた。その短い時間には、8歳の頃に戻れたよ」