【8月12日 AFP】脊髄損傷で長らく体がまひした患者らが、仮想現実トレーニングや脳制御ロボットなどの使用により、可動性や感覚、さらには性生活の復活などでこれまでにない改善をみせていることが、11日に発表された研究論文で明らかになった。

 英科学誌ネイチャー(Nature)系オンライン科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に発表された報告によると、下肢が完全に使用できなくなった男性6人と女性2人全員の状態が大きく改善したという。うち4人について医師らは「部分まひ」の状態に改善したと判断した。非侵襲的な方法によるものとしては、過去に聞いたことがないレベルの改善ぶりだという。

 最も劇的な改善がみられたのは下肢が完全にまひしてから10年以上たっていた32歳の女性かもしれない。ブラジル・サンパウロ(Sao Paulo)のクリニックでリハビリを受け始めたとき、この女性は支持具の助けを借りても立ち上がることさえできなかった。

 しかし13か月のリハビリをするうちに支持具と理学療法士の助けを借りて歩行できるようになり、ハーネスで体をつりさげられた状態で歩行動作もできるようになった。

 米ノースカロライナ(North Carolina)州デューク大学(Duke University)の神経科学者で、今回のリハビリ研究の主要立案者であるミゲル・ニコレリス(Miguel Nicolelis)氏は、「プロジェクトを始めたときは、このような驚くべき結果を予想することはできなかった」と述べた。

 女性患者の1人は皮膚や体内の感覚が戻ってきた。「それでこの女性は子供を産むと決めた」とニコレリスは話した。「彼女は陣痛を感じることもできた」

 新たな試みでは、リハビリはまず患者が自分の化身(アバター)を仮想現実環境内で操作する方法を習得することから始まった。この際に患者は、脳波を記録するため11個の電極がついたぴったりした帽子をかぶった。

 最初は、デジタルの3次元世界に没入して歩くことを想像するように求められたが、脚の運動制御に関連付けられた脳の部位は点灯しなかった。 だが数か月の訓練を経ると、脳の長らく眠っていた部分が覚醒し始めた。

 この段階で、患者らは姿勢やバランス、上肢を使用する能力の制御などを必要とする、より難しい器具へと進んでいった。これには、体の体重を支える頭上ハーネスなど理学療法センターでよくある器具だけでなく、アメリカンコミックのヒーロー「アイアンマン(Iron Man)」のパワードスーツに似ていなくもない外骨格装置も使われた。

 状態が改善した患者たちの体内で実際にどのような現象が起きたのか、まだ明らかになっていない。

 ニコレリス氏によると、少なくとも一つの先行研究で、完全まひと診断された患者であってもかなりの割合で、ある程度の脊髄神経が無傷のまま残っている可能性があることが示されていたという。

「こうした神経は(大脳)皮質から筋肉への信号が送られなくなったため、何年も活動していなかったのかもしれない」とニコレリス氏は述べた。「ブレイン・マシン・インターフェースによる訓練をするうちに、こうした神経を再び点火させることができたのだろう」

 ニコレリス氏は、残っている神経線維が少数であっても「脳の運動皮質野から脊髄に信号を伝達するのには十分である可能性がある」と語った。(c)AFP/Marlowe HOOD