■改宗後「やりたい放題」 

 ムラドさんは2014年8月、シンジャル近くの村コチョ(Kocho)でISに拉致され、ISが支配する北部の大都市モスル(Mosul)に連れていかれた。「彼らが最初にしたのは私たちをイスラム教に強制改宗させることだった。そして改宗後はやりたい放題だった」

 昨年12月、ムラドさんは国連安全保障理事会(UN Security Council)でスピーチを行い、IS構成員との「結婚」と、それに続くおぞましい虐待について詳細に語った。「もうあれ以上、レイプと拷問に耐えられなかった」。逃走を決意した心境をそう説明している。

 ムラドさんはモスル市内を逃走中、かくまってくれる人は誰もいないのではないかと恐怖に駆られていたが、何とかイスラム教徒の一家に保護してもらえた。そして一家が作ってくれたイスラム教徒の身分証明書を使って、イラクのクルド人自治区内に入境できた。

 自治区では避難民向けのキャンプで暮らしていたが、その後ヤジディー教徒の支援団体「ヤズダ(Yazda)」の尽力でドイツへ移住。現在もドイツ国内で姉妹の一人と一緒に暮らしている。

 ムラドさんは先月、ジュネーブの国連人権理事会(UN Human Rights Council)で演説。自分たちヤジディー教徒は国際社会からどれほど見捨てられていると感じているかと聴衆に訴え、泣き崩れた。

 ヤジディー教徒を根絶やしにしようとするISの企てに法の裁きが下されなければ、ヤジディー教徒の怒りは一層激しくなるとこの席で話したムラドさんは、国際社会に向けてもこう語りかけた。「ヤジディー教徒の信頼を取り戻すには多くの努力が必要になるでしょう」(c)AFP/Ben Simon