■両親に反抗した10代

 両親の言うことを聞いていたら、現在の陳氏はいなかっただろう。

 将来を心配した両親からは、芸術やダンスの道を勧められたが、ベッカム氏に刺激されサッカーでのキャリアを追求していくことを決意したチャン氏は、母親のサインを偽造して、10代でサッカーのトレーニングプログラムに申し込んだ。

「サッカーが楽しいと感じたので、やり始めたんです」という陳氏は、大学で地理学を専攻し、2010年に卒業。その後、データ分析の仕事をしていた香港飛馬(Hong Kong Pegasus FC)でアシスタントコーチに就任した。

「家族は、私にサッカーをあきらめるように言いました。給料はあまり良くないし、将来も安定しないと考えたのです。それでも耳を傾けませんでした。私は頑固なので」

 陳氏は、持ち前の「決してあきらめない」性格で、友人から「牛丸」というニックネームをつけられた。名前に入っている「ユエン」の音が、広東語の「丸(ユン)」の発音に近いこと、そして「牛」は耐久性を反映するからだという。

 東方でさらなるタイトル獲得を目指すのと同様に、陳氏は海外のトップクラブで経験を積み、それを香港(Hong Kong)に持ち帰ることを現在の目標としている。

 中国南部の経済拠点となっている香港では、男子のサッカー代表チームが世界ランク100位以下に沈んでおり、人口密度が高いためにサッカーの練習施設も限られている。

 そのため、多くのチームが本拠地を持たず、東方もラグビーのピッチで練習を行っている。陳氏は「うちのチームには練習施設がないのです。限られた予算内でベストを尽くしています」と明かした。

 そうした困難を前にしても、陳氏はフルタイムの監督職に満足しており、「たとえ結果が出せなくても、人生を楽しんでいます。趣味が高じての本職ですから」と話している。

 陳氏はまた、いつの日かベッカム氏と出会う夢を追い続けており、実現したら「彼にお礼を言わなくちゃ」と語った。(c)AFP/Dennis CHONG