【12月22日 AFP】火星の表面に液体の水が存在する「これまでで最も有力な証拠」が数か月前に発表されたが、少なくとも火星の多数の傾斜地に刻まれた溝には、液体水は存在しないとする研究結果が21日、発表された。

 フランスの研究チームが21日、英科学誌ネイチャー・ジオサイエンス(Nature Geoscience)に発表した論文によると、火星にある小渓谷は、地球上でみられるような水流によるものではなく、ドライアイスの融解によって形成された可能性が高いという。

 フランス国立科学研究センター(CNRS)のフランソワ・フォルジェ(Francois Forget)氏とセドリック・ピロルジェ(Cedric Pilorget)氏は「小渓谷の形成における液体水の役割については再検討すべきで、近い過去に火星でそれが起きた重要性に疑問が投げかけられている」と論文に記している。

 火星の熱帯地域の傾斜地に走る黒い線は、超高濃度の塩水によってできた筋である可能性があり、生命を維持できる水の存在を推測させるものだという研究結果が9月に公表され、メディアで大々的に報じられた。だが今回の研究では、これを示唆する結果は何も得られなかったと研究チームは指摘した。

 チームによると今回の論文が扱っているのは別の研究で、火星の別の地域、主に緯度30~60度の中緯度領域にある、極の側を向いた寒冷な傾斜地表面の地質特性に関するものだった。目指していたのは、クレーターの壁や丘陵など火星の隆起地形に刻まれた小渓谷の形成原因の究明だった。

 これらの小渓谷は発見当初、数十万年前に起きた氷の融解や地下水の漏出によって形成されたものだと解釈された。その後、近年になって、現在の火星は気温が低すぎて水が液体で存在できないにもかかわらず、小渓谷の形成が進行中であることが判明した。そこで研究チームは、小渓谷が形成される期間に存在することが観測されている、凍結した二酸化炭素(CO2)による薄い層に答えを求めた。

 表面の氷層の下で出口がない状態で融解したCO2は、ガスとして蓄積し、最終的に表層土を突き破ってガスと土石の噴流を引き起こすと考えられる。研究チームはこの説を裏付けるため、コンピューター・シミュレーションを使用した。地球上では同様のプロセスが起きた例は知られていない。

 宇宙物理学者のピロルジェ氏はAFPの取材に対し、ドライアイスの融解によって火星の小渓谷の形成すべてを説明できるわけではないだろうとしつつ、ただし最近になって形成された小渓谷がある寒冷地帯については、CO2ガス形成説が「有力とされるに違いない」と述べた。

 だが、どのような可能性も排除することはできず「他の補助的プロセスが作用している可能性もある」と補足し「例えば、赤道に近い領域でも小渓谷が発見されているが、これらは別のメカニズムで形成されたものである可能性が高い」と語った。

 また惑星学者のフォルジェ氏は「今回の研究と、9月の発表との関連性はない」と前置きし、「恐らく全ての小渓谷について言えると思うが、少なくとも一部の小渓谷には液体の水が存在しないこと、また小渓谷がみられる領域では液体水が存在できない、つまり生命の存在にはつながらないことを、今回の結果は示している」と語った。(c)AFP/Pascale Mollard-Chenebenoit