■潜在的過激主義者の完全追跡は不可能

 こうした批判の声が上がる一方で、専門家は、監視対象の規模があまりに大きく、完全な追跡を不可能にしているという。

 イスラム過激派に加わるためにシリアやイラクへ渡航している国民が最も多いのはフランスだ。公式統計によれば、シリアやイラクでISに合流しているとみられるフランス人の数は500人を超える。また帰国した者が250人、これから渡航を希望している者が約750人いるといわれる。過激主義者になる恐れがあるとして「Sファイル」に登録されている人物は1万人を超える。

 フランスは今夏、新たな法的枠組みを設けて警察に、裁判所の令状なしに電話の盗聴や通信傍受ができる広範囲な権限を与えた。だが、1月に風刺週刊紙シャルリー・エブド(Charlie Hebdo)本社襲撃事件を引き起こしたクアシ(Kouachi)兄弟の例と同様、「問題は潜在的なテロリストを特定することではなく、彼らが分析・評価のための情報源を持っていることだ」と、米調査会社IHS系のIHSカントリー・リスク(IHS Country Risk)のアナリスト、キット・ニコル(Kit Nicholl)氏は話す。「おそらく外国で訓練を受けた者たちは、通信を一切回避するなり、情報機関が先回りできないようなペースで進化する最新の暗号技術を使うなりして、監視を迂回(うかい)する方法を分かっている」という。

 DGSEの元職員は匿名で取材に応じ、今回のパリ連続襲撃事件には三つの可能性があると話す。「まず、もしもそうならば大いに懸念されることだが、誰も何も見ていなかった可能性。あるいは、我々は目にはしていたが、目にしたものを理解できなかった可能性。これも問題だ。あるいは我々は見ていて、さまざまな手立てを打ったにもかかわらず攻撃を許してしまった可能性だ」。つまり「情報活動か、情報の分析か、さもなくば治安部門の指揮系統のどれかに問題があるということだ」

 元職員はまた襲撃の「準備が行われたのがベルギーだったという事実も、問題をいっそう難しくした」という。「人口比でシリアに渡る人間の割合が最も多いのはベルギーなのに、ベルギー当局は役割を果たせていないと言わざるを得ない。襲撃事件の実行犯の多くはブリュッセル(Brussels)で知られていた人物だ」「誰かがしくじったのだ」

 しかし、対テロ機関の職員たちは、限られたリソースで監視対象人物の優先順位をつけるという困難な選択を迫られている。「それを考えると夜、眠れなくなる」と、フランスの対テロ機関のある幹部は今回の事件の前に行ったインタビューで語っていた。「監視対象リストの中で、どうすれば正しい位置に正しい名前を挙げることができるか。厳正な科学からはまったく遠い仕事だ」

 最終的な矛先が治安機関に向かうべきではないという意見もある。シュエ氏は「明らかに襲撃事件が起こり、問題があったということだ。だが、森林火災を消防隊のせいにはできないだろう」と語った。(c)AFP/Eric RANDOPLH and Michel MOUTOT