【4月18日 AFP】イスラム過激派の戦闘員が男の喉を切り裂く。別の戦闘員は切断された人間の頭部をライフル銃に突き刺して振りかざす。遺体があふれかえる溝に、また別の遺体を投げ捨てる戦闘員もいる。

 イスラム過激派組織「イスラム国(Islamic StateIS)」が2014年夏、イラク北部のクルド系少数派、ヤジディー(Yazidi)教徒に対して行った大量虐殺の様子を、画家のアマー・サリム(Ammar Salim)さんが描いている。

 サリムさんの仕事場は、イラクのクルド人自治区ドホーク(Dohuk)にある小さなアパートだ。「ヤジディー教徒のジェノサイド(集団虐殺)」と題された絵画シリーズを通して、サリムさんは自分が属する共同体の集合的記憶をキャンバスにとどめようとしている。

 100人以上の人物が登場する最も新しい作品は、イラク北部シンジャル(Sinjar)地域で見つかった多数の墓から着想を得た。サリムさんは「ほとんどの人は武器やペン、報道を武器に戦うが、私は芸術を通じて戦う。目にしたことのないものを人々に見てほしい」と語った。

 ルネサンス期の地獄絵を思わせる鮮やかな色彩で群衆を描くサリムさんの絵画は、意図的に衝撃を伝えようとしている。ISによるシンジャル制圧をテーマにした作品では、女性がレイプされたり殺害されたり、拉致されたりする様子を描いた。ISが拠点としているイラク北部モスル(Mosul)で、IS戦闘員によって売買されるヤジディー教徒の女性を描写したものもある。

 サリムさんは昨年6月、ISが勢力を拡大する中でモスルを制圧した際、同市東部バシカ(Bashiqa)地区から逃れた。バシカにはそれまで描きためていた数万ドル相当の価値ある作品群を置き去りにしてきた。

 ISによる2度目の昨年8月の進撃では、イラクの少数民族の多くが住む北部が標的となった。イスラム教徒でもアラブ民族でもなく、固有の信仰を持つヤジディー教徒は、ISから異端者とみなされ、特に激しい攻撃にさらされている。イラク北部における米国主導の空爆作戦によってISの支配地拡大の流れが変わるまで、ヤジディー教徒は先祖代々暮らしてきた土地から一掃される危機にあるとみられていた。

 ISによる大虐殺をテーマにしたサリムさんの絵画はこれまでのところ7点。最終的には20点のシリーズにすることを目指している。これから着手する作品では、虐殺された大勢の人々が埋められた墓で娘の骨を拾う女性と、遺体が着けていた宝石類を奪うもう一人の娘を描くという。

 サリムさんは「テーマはヤジディー教徒の権利や、ヤジディー教徒の殺害、大量虐殺だ。この先も、彼らは自分たちの身に起こったことを決して忘れないだろう」と語った。(c)AFP/Jonathan KROHN