【2月17日 AFP】2月22日に授賞式が行われるアカデミー賞(Academy Awards)の候補にノミネートされた者にとって、発表までの数週間は重圧の日々なのかもしれないが、エドワード・スノーデン(Edward Snowden)容疑者をめぐるドキュメンタリー映画『シチズンフォー(原題、Citizenfour)』のローラ・ポイトラス(Laura Poitras)監督にとっては大したプレッシャーではないようだ──ここに辿り着く過程に比べれば。

 米情報当局の監視プログラムについて大量の機密を暴露した元米国家安全保障局(NSA)局員、スノーデン容疑者が接触してきた瞬間から、ポイトラス監督の人生はスパイ小説さながらに様変わりした。タイトルの「シチズンフォー」とは、スノーデン容疑者がポイトラス監督に接触してきた際に使用したハンドルネームだ。

 最もリスクが高かったのは、スノーデン容疑者が2人目に接触をしたジャーナリスト、グレン・グリーンウォルド(Glenn Greenwald)氏とともに香港に潜伏中の本人に会いに行ったときだったという。「いくつか過剰な予防策をとった」というポイトラス監督は、公共の場からだけ閲覧するためのコンピューターを1台別にしたことを明らかにし、「取材を始めてから、携帯電話は1年間持ち歩かなかった。自分がいる位置を『放送』したくなかったから」と米ロサンゼルス(Los Angeles)でAFPのインタビューに述べた。この時期の出来事も映画には含まれている。

 スノーデン容疑者が暴露した内容を報じた英ガーディアン(Guardian)紙や米ワシントン・ポスト(Washington Post)紙の記者たちは、優れた報道に授与されるピュリツァー賞(Pulitzer Prize)を獲得。ポイトラス監督も、既にこの映画で英国映画テレビ芸術アカデミー(British Academy Film and Television ArtsBAFTA)の最優秀ドキュメンタリー賞など、複数の賞を受賞している。アカデミー賞を受賞すれば「監視問題にもっと注目を集めることができるだろう」と監督はいう。

■制御不可能になる情報機関に警戒

 スノーデン容疑者による機密の暴露は「米政府が情報収集のために何をしているか、そして彼らがもたらしているリスクについての意識」の高まりを促すとポイトラス監督は考えている。「暗号化の使用が増えている。(例えば)グーグル(Google)は自社サーバーの暗号化を強化している。人々は個人情報についてもっと用心深くなるだろう」 

 なかでも、スノーデン容疑者による暴露が明確に示したのは「情報機関が手に負えないものになりつつあり、それを規制する法が整うよりも早いペースで拡大している」ことだと、ポイトラス監督は警告する。

「シチズンフォー」は、米政府の「テロとの戦い」に関する3部作の3作目で、共同製作者にはスティーヴン・ソダーバーグ(Steven Soderbergh)監督が名を連ねた。編集はマチルド・ボンフォワ(Mathilde Bonnefoy)氏が担当している。

 作品では、NSAが収集したデータや通信を監視するいわゆる「PRISM(プリズム)」と呼ばれる米政府の監視プログラムについて、ポイトラス監督とグリーンウォルド氏、ガーディアン紙のユエン・マカスキル(Ewen MacAskill)氏に説明する撮影当時31歳のスノーデン容疑者の姿が描かれている。

 映画ではまた、スノーデン容疑者が偏執的なまでにカメラと電話を気にする様子も捉えられていた。カーテンの閉まったホテルの一室で、あらゆる雑音に対して大きなストレスを感じているように見える。

 この作品でスノーデン容疑者は、機密暴露に至った動機について説明している他、交際相手の女性の身に何か起きないかと不安に感じたこと、彼女に何も告げずに米国を離れたことに罪悪感を覚えたこと、そしてロシアで再開したことなどについても語っている。スノーデン容疑者は今も米国で指名手配されており、モスクワ(Moscow)に住んでいる。

 ポイトラス監督は、この映画を撮った理由について「何が起きたのか、何が動機となったのか、そしてなぜ彼(スノーデン容疑者)がこうしたリスクを負ったのか…本気で伝えたいと思った」と話す。そして映画が認められれば「何らかの法的手段を使って米国政府がわたしを追い詰めようとしたなら、多少の盾にはなるかも」とも語った。

「これは、もろ刃の剣だ。以前だったら、私に連絡などして来なかっただろう人たちが、(今後は)連絡をしてくるかもしれない。それは知名度が上がるからだ。けれど、今日まで私がしてきた仕事の多くは、私がいわば目立たなかったからこそ出来たことでもある。しかし、これからは『レーダーにかかり過ぎる』と思う人たちもでてくるかもしれない」

(c)AFP/Veronique DUPONT