【2月17日 AFP】国共内戦時の共産党軍兵士さながら、空色に赤い星があしらわれた軍服を着た現代中国の子どもたちの「戦場」は学校の教室だ。「私たちは紅軍の新世代」と子どもたちは歌う。腰に太いベルトを巻いた人民服姿は、中国全土を行進した毛沢東(Mao Zedong)の軍をほうふつとさせる。

「私たちは進む。不屈の意志で」と歌うのは中国の四川(Sichuan)省北川(Beichuan)県にある北川紅軍小学校の校歌だ。ここで教える革命の歴史は、中国を一党支配する共産党が自らの正統性を強化するために、児童の「心と頭を」鍛える「愛国教育」の極端な一例だが、「洗脳にすぎない」との批判も聞かれる。

 革命時代の労農紅軍司令官やその遺族からなる「紅軍エリート」たちの出資を受けて、2007年以降に中国各地に設立された紅軍小学校は150校近くある。

 北川紅軍小学校の児童たちが、毛沢東と習近平(Xi Jinping)氏という新旧国家主席2人の肖像写真の下を通って教室に駆け込むと、電子白板を使って教師が彼らに語りかける。「(長征で)湿地帯を進む紅軍の写真を見てください。前の世代の人たちや毛おじいさんをどう思いますか?」。12歳の少年がゲリラ戦士のごとく電光石火で手を挙げて答える。「紅軍は偉大です。僕たちは彼らの革命的精神に学ばなければなりません」

■共産党の正統性強化が目的

 紅軍学校が建設された地域は国共内戦当時、中国共産党が国民党政権に武装蜂起した拠点だったところで、今も中国国内で最も貧しい地域である場合が多い。紅軍学校の教育キャンペーンは人民解放軍が直接手掛けるものではないが、そうした貧困地域の「遅れた教育状況を向上させる」ことと「紅軍の精神を広める」という二つの目的があると同校のウェブサイトは説明している。創設者や寄付者の名簿には、中国の元政治家や軍幹部の妻など身内の名前が並ぶ。例えば習主席の母親は15万元(約280万円)を寄付している。

 またウェブサイトは「日々の生活の隅々にまで金銭の追求という行為が広まっている昨今、革命的理想を説くことは、いつになく重要性を増している」とし、「伝統的な革命の手法を通じて、党の歴史と若者の教育を広めることに貢献している」と紅軍小学校の意義を述べている。

 ここ数十年の中国では、イデオロギー教育の再強化がみられる。当局の弾圧で民主化を求めた学生多数が死亡した1989年の天安門事件を機に、当時の江沢民(Jiang Zemin)国家主席は小学校および幼稚園での再度、歴史教育に注力するよう求めた。

 標準的な小学校教科書では、19世紀の欧州列強による中国の一部占領の項に「忘れられない屈辱」という章題がつけられ、教育課程の中心にすえられている。旧日本軍の侵略についても同様だ。12歳向けの教科書は「屈辱の世紀を鑑み、新しい中国の偉大さについてあなたの意見を語りなさい」と児童たちに促している。

 「中国は共産党によって救われたというのが、この教育キャンペーンの核にあるメッセージだ」と、米シートンホール大学(Seton Hall University)の汪錚(Zheng Wang)準教授はAFPの取材に語る。「学生運動(天安門事件)とソ連崩壊を経た今、共産党の正統性を増すことが主な目的だ」。この教育キャンペーンに、習近平主席は過去の指導者たちよりも「いっそう熱心」だという。

 こうした動きについて中国のリベラル派は、中国共産党の暴力の歴史を歪曲し、民族主義的熱狂をあおるものだと嫌悪している。「ある意味、紅軍小学校は、庶民をだまし、共産党の奴隷をつくりだそうとする党の動きの延長だ」と亡命作家の李昕艾(Li Xinai)氏は記している。

■「訓練」される歴史観

 北川県の世帯の平均収入は、わずか月540元(約1万200円)ほどだ。親たちの多くは何百キロも離れた都市へ出稼ぎへ行く。

 北川紅軍小学校は、12年に紅軍学校となったことで、20万元(約380万円)の追加資金を得て、教師の月給も上がったという。

 同小学校の校長は、革命的精神とは「一致団結」することだと話し、胡錦濤(Hu Jintao)前国家主席の言葉「第一にすべきことは、国を愛すること、それから調和のとれた社会を作ること」を引用した。

 北川紅軍小学校は全寮制だが、規律に縛られてばかりではない。サッカーや漫画が趣味だと児童たちはいう。しかし、一方で児童たちの歴史観は非常によく鍛錬されている。8歳の児童が「紅軍が鬼子をやっつけた」と口にする。鬼子とは旧日本軍の兵士についてよく使われる軽蔑語だ。

 別の児童は、地元の革命家をたたえたという自作の詩を見せてくれた。「泥にまみれてもひるまず、彼は勇敢に戦い、敵の一群40部隊を殺した」。顔を上げるとその子は言った。「紅軍とは共産党のことです」(c)AFP/Tom HANCOCK