■首相が行った支援表明への疑念

 安倍首相は、2人がイスラム国の人質となっていることを承知していながら、イスラム国との戦いに参加している国々への援助を大々的に発表した。だが事件を受け、この行動の賢明さに対する疑問の声が上がっている。

 日本大学(Nihon University)の岩井奉信(Tomoaki Iwai)教授(政治学)は「安倍さんは、支援は人道的なものだと言った。それは正しい」と語る一方で、「援助を発表したとき、イスラム国と『闘う』という言葉を使っている。あれは不用意ではなかったか。後から『人道的』といったが、闘うという言葉があった」と指摘する。「物事が落ちついた時点で、検証ということになってくるでしょう」

 日本政府は、イスラム国が後藤さんの殺害を発表したわずか数日前、交渉が暗礁に乗り上げていたことを認めた。外交官らはイスラム国との直接接触の手段を持たず、また身代金についての直接交渉もなかった。

 いずれにせよ、イスラム国がその要求を身代金からヨルダンの女死刑囚釈放に素早く切り替えたことから、イスラム国がどの程度交渉に本気なのかは不明瞭な状態だった。

 日本政府は、湯川さんが昨年イスラム国に拘束された後に情報連絡室を設置していた。また1月に2人の身代金要求が出された際には、周辺地域に外交官らを派遣した。

 だが、湯川さんが拘束されて以降、何らかの進展があったのか、そして日本が人質解放のための確固とした窓口を有しているのかについて何の説明もなく数か月が経った。

 朝日新聞(Asahi Shimbun)は社説で「政府が2人の拘束を知ってからでいえば、すでに相当の月日がたっていた」と指摘。また、日本は危機対応能力を強化すべきであり、親切な支援国のイメージを持ってしても暴力の標的になることを免れることは必ずしもできないと警告し、「それらは『対岸』の出来事ではなく、日本が向き合わねばならないことである」と論じている。(c)AFP/ Shingo ITO