【11月7日 AFP】「姿を見えなくする」ことは、映画『ハリー・ポッター(Harry Potter)』などのフィクションの世界の話かもしれないが、実験用マウスをほぼ完全に「透明化」する手法を開発したとの日本の研究チームによる研究論文が、米医学誌セル(Cell)に発表された。

 理化学研究所(RIKEN)などの研究チームによると、組織から色素をほぼ完全に除去する手法を用いる(マウスはこの過程で殺処分される)ことで、個々の臓器や全身を、薄切りにせずにそのままの状態で詳しく調べることが可能になり、現在取り組んでいるさまざまな問題に対して「より大局的な」見方がもたらされるという。

 論文主執筆者の田井中一貴(Kazuki Tainaka)氏は、この技術により、臓器の立体(3D)構造や、特定の遺伝子がさまざまな組織でどのように発現するかに関する新たな理解が得られるようになるとした。田井中氏は、RIKENと共同研究者らが発表した声明で、幼生マウスと成体マウスの全身をほぼ透明にできることに非常に驚いたと述べている。

 東京大学(University of Tokyo)と科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency)も参加した今回の研究では、「ヘム」と呼ばれる化合物に焦点が当てられた。血液を赤い色にしている構成物質のヘムは、体組織の大半に存在している。

「透明化」のプロセスでは、まずマウスの心臓経由で生理食塩水を送り込み、循環系から血液を押し出す。この際にマウスは死ぬ。次に、透明化試薬を注入する。この試薬は、マウスの臓器内に残っているヘモグロビンからヘムを分離させる働きを持つ。死んだマウスから皮膚を剥離し、マウスを試薬に最大2週間浸すと、透明化プロセスは完了する。

 さらに、このマウスに特定の透過レベルを設定することが可能なシート状のレーザー光を照射することで、3Dプリンターが三次元物体を層状に積み重ねて物体を構築するのと同じように体の完全な画像を取得することができるという。

 AFPの取材で田井中氏は、顕微鏡は対象を微細に見ることを可能にしてきたが、それは一方で、見ている対象の置かれている状況が、観察者の視点から奪われることにもなっていたこと指摘。生きている生物には適用できないが、この新手法では「対象をより大局的に把握しながら、細部の情報も同時に得ることが可能になる」と説明した。

 研究チームを率いた上田泰己(Hiroki Ueda)氏は声明で、この手法が胚の発達過程や、がん、自己免疫疾患などの発病過程を細胞レベルで調べるために利用できる可能性があると述べ、またそのような疾患へのより深い理解、さらには新たな治療戦略の開発にもつながることが期待されるとしている。(c)AFP