【4月14日 AFP】南米コロンビアの首都ボゴタ(Bogota)にあるサン・イグナシオ(San Ignacio)病院の新生児集中治療室では、男性を含め新生児の親たちが生まれて間もないわが子を自分の素肌の胸でいとおしそうに抱きかかえている。繰り返しここへ通ってきては、この姿勢のまま5時間過ごすのだという。

 親子が素肌を密着させるこのシンプルな手法は、「カンガルーケア」として知られている。雌親が子を成熟するまでおなかの袋の中で育てるカンガルーにちなんだ呼称だ。30年以上前、保育器が不足していたコロンビアで始まった。当初は懐疑的な見方もあったが、今では同国全土はもちろん、世界中に広がっている。

■保育器と同程度の有効性

 カンガルーケアは簡単そうだが、一定のルールがある。親は授乳とおむつ替えの時以外、姿勢を変えてはならない。さらに、乳児が直立姿勢を保ちなおかつ肌と肌が常に触れているよう、夜間でも親は横になれない。

 周囲の環境も大事だ。サン・イグナシオ病院の看護師らは、子宮内に似た状態を再現するため、照明を落とし、騒音レベルが60デシベルを超えないよう注意を払っている。

 カンガルーケアを標準化するよう1978年から推進してきたナタリー・シャルパック(Nathalie Charpak)医師は、「(カンガルーケアは)保育器と同じくらい有効」と述べている。カンガルーケアは今や同国外でも取り入れられており、同医師は、米国やスペイン、スウェーデンなど「30か国以上でトレーニングを実施してきた」という。さらにコロンビアの医師らは、その効果を伝えようとアジアやアフリカへも赴いている。

 その努力は報われつつあり、国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)によると、ブラジルでは「カンガルーケア」を一部に取り入れた育児プログラムを開始して20年で、5歳未満の乳幼児の死亡率が3分の2に減少したという。

■カンガルーケア採用を阻む文化の壁

 初めは「貧困層のための(保育器の)代替手段」という位置付けだったカンガルーケアは、世界保健機関(World Health OrganizationWHO)が2004年に母乳育児を推進し、子どもの認知発達を刺激する手法と認めたことで勢いを得た。

 しかし複数の利点があるにもかかわらず、文化的な障壁によってカンガルーケアが受け入れられないところもある。シャルパック医師によると、「母親が(出産後入院先から)自宅に戻るとすぐに働く」ことがほとんどのインドやアフリカなどでその傾向が特に顕著だという。

 しかし、「カンガルー財団(Kangaroo Foundation)」が本部を置くサン・イグナシオ病院で実際にカンガルーケアを行っている親たちは、その有効性を強く信じている。連日30人ほどの母親らが、しっかりと布にくるまれてウールの帽子をかぶった小さなわが子を胸に抱きしめている。(c)AFP/Ariela NAVARRO