■「スローシティー」を経済危機克服の鍵に

 オルビエートの失業率は、全国平均よりもずっと高い35.4%に上っている。以前は通りに1軒はあった大工工房が、今は1つしか残っていない。しかし石畳の道に隠れるように18世紀から建つそのミケランジェリ(Michelangeli)の家具工房には今も電気のこぎりの音がにぎやかに響く。

「大規模な産業がなければ経済発展が阻まれるのは確かだ」と言うコンチーナ市長は、スターバックス(Starbucks)のような多国籍チェーンが街に来れば仕事は生まれるだろうが、そういうものはまったく欲しくないという。

 オリベーティさんは「スローシティー」の考えによって「職人の気質や技術、観光といったコミュニティーの価値が重んじられ、それを鍵にして経済危機も乗り越えることができる」と信じている。オルビエートの街は、中心部に今も残る古い工房で働く職人や印刷工、陶芸師を誇りにしている。

 陶磁器を作るワルテル・アンブロシニ(Walter Ambrosini)さんは「イタリアだけでなく国外にも顧客がいるが、ここから動いてビジネスを広げる計画はない。金銭ではなく、静かな暮らしを送ることが重要なのだ」という。

 7世代にわたって木工を受け継いできたガイア・リチェッティ(Gaia Ricetti)さんは、経済危機であろうとも「スローにやるという部分がなければ、同じ品質の物は作れない。私たちが使う木は5年間は寝かせるんだ。オルビエートならばそういう時間も場所も与えてくれる」と語る。

 現在のところ「スローシティー」運動は小さな街に限られているが、オリベーティさんはスペインのバルセロナ(Barcelona)から韓国のソウル(Seoul)まで、大きな都市にもこの運動の考えを採用してもらい、「スローシティー文化の島々」を作り出せたらと思っている。(c)AFP/Ella Ide