【12月13日 AFP】今年8月にシリアで化学兵器が使用された際、米政府は国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系のシリア国内のグループがサリンガスの製造能力を有することを情報活動でつかんでいながら、内戦への軍事介入を正当化するためにその情報を無視し、シリアのアサド政権が使用したと非難していたとする暴露記事を、調査報道の大御所セイモア・ハーシュ(Seymour Hersh)氏が発表した。

 英書評・思想誌ロンドン・レビュー・オブ・ブックス(London Review of Books)に発表された長編の記事でハーシュ氏は、米国のバラク・オバマ(Barack Obama)政権が「情報を意図的に操作した」と非難している。

 8月21日にシリアの首都ダマスカス(Damascus)近郊で化学兵器が使用され、米国の推計で1400人以上が死亡したとされる攻撃について、ハーシュ氏はアサド政権が使用した可能性を排除はしていない。しかし同氏はオバマ政権が、自分たちの見解に沿う情報だけを拾い、その他の情報については沈黙したと主張している。特にオバマ大統領は、化学兵器を使用したのはアサド政権だと非難した9月10日の演説で「重要な情報」を省き、「仮定を真実として」発表したとして批判している。

 ハーシュ氏は次のように記事に書いている。「最も重要な点は、米国の情報筋がつかんでいたあることを、オバマ氏は認めなかったことだ。それはシリア内戦において、サリンを手にできる者はシリア軍だけではなかったということだ。化学兵器攻撃が起きる数か月前、米国の情報機関は一連の高度な極秘報告を行っており、それによって地上侵攻に先行する計画書である正式な作戦命令には、シリア国内で活動するアルカイダ系イスラム武装組織「アルヌスラ戦線(Al-Nusra Front)」がサリンの製造方法を熟知し、大量に製造する能力を持つという証拠が挙げられていた。化学兵器による攻撃が起きた際、アルヌスラ戦線は疑われるべきだったのに(オバマ)政権は、アサド政権に対する攻撃を正当化するために情報を選別した」

 ハーシュ氏が挙げているのは、6月20日に米国防情報局(Defense Intelligence AgencyDIA)高官に送られたという4ページの報告書。アルヌスラ戦線はイラク軍の化学兵器専門家だったジヤド・タリク・アハメド(Ziyad Tarik Ahmed)氏の支援を得て、サリンを製造し、使用する能力を持っているとする過去の報告を確認する内容だったという。

 ハーシュ氏の記事に対し、米国家情報長官局(Office of the Director of National IntelligenceODNI)のショーン・ターナー(Shawn Turner)報道官は「情報をもみ消す努力があったという示唆は、単に誤りだ」と述べ、ハーシュ氏の主張を裏付ける証拠はないと反論している。ターナー報道官は「(その報告書にあった)情報は明らかにアサド政権を指しており、8月21日の化学兵器攻撃を行う能力があったのは唯一、アサド政権だ。反対にハーシュ氏の主張を裏付ける証拠はない」と強調した。(c)AFP