【11月14日 AFP】シルビー・ベランジェギヨーム(Sylvie Bellanger Guillaume)さんは商品(コモディティー)トレーダーだった頃、自身が売買している商品の生産者に思いをはせることなどほとんどなかった。パリ(Paris)市内のオフィスで、パソコンの画面で価格変動を追い、電話で取引する毎日だった。しかし1994年に生産農家からカカオ豆を直接買い付ける会社「シルコ(Silco)」を立ち上げて間もなく、遠い世界だった生産地の現実を知ることになった。

 パリで開かれていたチョコレートの見本市「サロン・デュ・ショコラ(Salon du Chocolat)」の会場で、ベランジェギヨームさんはAFPに対し「マダカスカルで1日わずか1ドルで生活している人たちを目の当たりにしたのが、最初に受けたショックの1つでした。子どもを学校に通わせ、子どもに薬を与えるため支援を必要としているこうした人々を何とかしなくては、と強く感じたんです」と振り返った。

 ベランジェギヨームさんはマダガスカルのみならず、ドミニカ共和国やメキシコ、ペルー、サントメ・プリンシペのカカオ豆生産農家と提携し、自身の会社シルコを通じてカカオ豆を多数の大手企業に供給している。ただベランジェギヨームさんの事業は、かつて自身が属していた金融業界の、利益の最大化を追求する原理とは無縁だ。生産者への支払額は、おおむねニューヨーク(New York)市場やロンドン(London)市場の時価の2倍であることを、ベランジェギヨームさんは包み隠さず明らかにしている。

■基準に適合した豆を

 フェアトレードに世界共通の定義はないものの、その一般的な原則には、割増金(プレミアム)を上乗せした価格、前払い、児童労働が行われていないとの保証、農地の適切な管理による持続可能な農業への取り組みなどがある。

 ベランジェギヨームさんのカカオ豆の供給先には、ボナ(Bonnat)、プラリュ(Pralus)、シャポン(Chapon)、ヴェイス(Weiss)といったフランスの有名チョコレート専門店や、ミシュラン(Michelin)の星を獲得したシェフのアラン・デュカス(Alain Ducasse)氏が含まれている。ベランジェギヨームさんはこうした買い手のため、フェアトレードの原則に基づいて栽培される最高品質のカカオ豆を探して世界を駆け回っている。

 ベランジェギヨームさんは少なくとも年に1度、アフリカや南米、メキシコの生産農家を訪ねる。「生産農家の日々の作業や、豆を何日間発酵させ、乾燥しているか把握している」という。

 持続可能な発展や倫理的な取引を支援するのは、将来のカカオ豆供給にチョコレート業界が不安を持っているからでもある。貧困から抜け出せない生産農家が農地を放棄して都市部に出て行ってしまえば、業界が繁栄する可能性はなくなる。

 ベランジェギヨームさんは「前払いと倫理的な取引、生産農家の日々の作業への敬意がわたしの取り組み方。そうすれば最終的に素晴らしいチョコレートが出来上がります」と語った。「うちのお客様は価格の安さを求めていません。どうしてこの価格になるのか納得した上でお支払いいただいています」

(c)AFP/Helen ROWE