【7月22日 senken h】次世代をリードしそうなクリエイティブなヒト・モノ・コトにフォーカスする「アッシュ・インキュベーション」。今回は「ハイク(HYKE)」。09年に人気絶頂で活動を休止した東京デザイナーブランド「グリーン」が、今年からブランド名を変更して再始動。ファッションバイヤーの注目を集めている。育児や家庭生活のために休止を選んだデザイナーの吉原秀明と大出由紀子は今、「休止を経て、幸せな服作りをめざすように変わった」と話す。休止中に何を感じ、これからハイクで何をするのか――

――活動再開はなぜ?

「元々戻るつもりではあったのですが、自分たちの中で心境の変化は大きかったですね。休止の間に子供の親になって、自分の命よりも大事なものができて、それを大切にする時間を過ごしていくうち、ファッションやデザインについて意識が変わった。休む前は、次のコレクションのことをいつも考えたり、店頭や商品生産のことを考えたりで、常にファッションで頭がいっぱいだった。でも今は、仕事のあと子育ての時間で意識がちょっと変わったり、家族の仕事との両立を考えたり、調和とバランスが一番重要になりました。それって、今のファッションにも近いのかなと思います。生活者もトレンドとか最先端というだけではなく、おしゃれで上質で、それでいて長く愛用できる調和の取れた服を求めている。
自分たちも本当に良いもの、自分の好きなものは何かを考えたり、それを作り手も売り手も買い手も、みんなが一番良いバランスで生み出し、長く作り、着てもらう、そんな幸せな服作りを漠然と考えるようになった気がします。そんな風に今の自然体のままファッションデザインが出来るかなと思ったので、今年ハイクにチャレンジしました」


――ハイクが生み出すコレクションは?

「ハイクとしてのファーストコレクションの今秋は、商品数がグリーンの頃の半分。これが今の自分たちに自然なスケールでした。子育てしているスタッフも多いので。その分ビジネスの規模も減るけど、それで良い。作る人も売る人も無理なく仕事できて、薄利多売ではなく、適正な利益もある。それがちょうど良いんじゃないかって思っています。
 休んでいる間、ファストファッションのトレンドもあって、私たちのようにラグジュアリーと値ごろな服の間にいるデザイナーブランドにはちょっと厳しいなと思っていました。だからこそ、自分たちらしいデザインを突き詰めないといけない。ベーシックで着やすい服だけど、生地や縫製やシルエットで安い服にはないデザインや工夫が入っている商品、価格以上の喜びを長く伝えられる服を作りたいと思っています。
そのためには、生地からオリジナルで作ったり、一つひとつ、細部にも手が抜けないから、デザインできる数は限られる。作り手の職人さんや工場にも利益が出る値段にして、買った人も満足する値段にもしようとすると、自然と作る時間や量もほどほどになってくる。納得できるモノ作りを続けるためにも、当面は今のビジネススケールがベストだと思っています」

――今後はどんな活動をしていく?

「今秋は映像で新作を発表しました。コレクションショーをしていた時もエキサイティングだったのですが、今はこれが自分たちらしいかなと。ショーはその瞬間に来場した人だけが見ますが、映像は生活者も含めて多くの方が触れられるので今の自分たちにも合っているし、お客さんと一緒に服の喜びを感じる今の時代ともマッチすると思います。直営店とか、海外への輸出、メンズやキッズなども、ありがたいことにたくさんのニーズをもらっています。どれも興味はあるし、うれしいお話。でもそれありきじゃない。自分たちが考える幸せな服作りと一緒にいろんなチャレンジと発展がある。新しいことをやるために全速前進するのではなくて、バランス感を持って努力を積み上げた先に、夢を見たいですね」


[プロフィール]
吉原秀明 / 大出由紀子
ともに1969年生まれ。吉原は日本メンズアパレルアカデミー、大出はバンタンデザイン研究所を卒業後、パタンナー、スタイリストやプレスを経験。97年に2人で古着屋をオープンし、98年には「グリーン」を発表。ミニマムでトラッド、マニッシュなウエアを女性的に仕上げた服で、東京デザイナーブランドでトップクラスの人気を獲得。09年春夏にグリーンを休止し、13年秋からハイクとして再開。(c)senken h