【5月28日 AFP】セックスシーンがハリウッド映画の視聴者たちにとって魅力的なものでなくなった一方、最近の映画では暴力的な描写が至る所で見られるようになった──カンヌ映画祭に集まった業界関係者たちはこのように語っている。

 オンラインでポルノをいつでも見られるようになった現在、映画製作者たちはもはやセックスシーンを評価しなくなり、その埋め合わせとして、アクションシーンやスペシャルエフェクトを求めるようになっている。「若者市場」を取り込みたい制作側の意図もあるだろう。

 米ロサンゼルス(Los Angeles)を拠点とするセールスエージェント、テイラー&ダッジ(Taylor & Dodge)のマイケル・レビー(Michael Lavey)氏は、AFPの取材に対し、若い観客を呼び込む必要から、映画の暴力の度合いが爆発的に高まっていると語る。

「若い子たちは暴力に免疫があるんだと思う。ビデオゲームだよ。(映画館に)足を運ばせるためには必ず何か暴力が必要なくらいだ」と、レビー氏は語った。

■カンヌ作品に続々、過激な暴力描写

 中国の『ア・タッチ・オブ・シン(英題、A Touch of Sin)』や日本の『藁の楯 わらのたて(Shield of Straw)』など、今年のカンヌ映画祭で上映された映画の多くが、その暴力描写の度合いで観客に衝撃を与えた。メキシコの監督、アマト・エスカランテ氏は、映画『エリ(Heli)』での超暴力的な描写で多くの評論家たちに吐き気をもよおさせ、上映後に釈明を強いられた。

 カンヌ映画祭を20年間取材してきたスイス紙ジュネーブ・トリビューン(Geneva Tribune)の映画評論家、Edmee Cuttat氏は、暴力の度合いが増したのではなく、「意味のない暴力」の度合いが増したのだと指摘する。

 Cuttat氏は『エリ』を「最悪」と評し、また『Only God Forgives』の中で男性が肘掛けいすにナイフで釘止めされ、目を刺されるシーンは正視できなかったと語った。

「私が嫌なのは意味のない暴力。私は(作品のために)役立っていないと思うけれど、監督たちは意味のない暴力が時代に対応していると考えているようだ」

■意味のないセックスシーンに代わる意味のない暴力

 どうやら、意味のないセックスシーンはマーケティングツールとして、意味のない暴力シーンに置き換えられたようだ。

 市場調査会社「Ispos」の映画部門責任者は今年、英紙サンデー・タイムズ(Sunday Times)に対し、セックスシーンはかつて、「ストーリーを考慮することなく」脚本に書き込まれていたと語った。

 だが、現在の映画製作者は、「本当にセックスは必要か。代わりにスペシャルエフェクトで埋めて、家族で試聴できるレーティング(評価)を獲得したほうが良いのではないか」と考えるようになったという。

 一方、フランス生まれのオーストラリアの映画監督、Chantal Denoux氏は、描かれなかったものが持つ力をもう一度考え直すよう、監督たちに呼び掛けた。

「セックスと少し似ている。暴力を見せることが完全に重要な場合もある。だが、意味のない暴力だという印象を受ける場面もある」

「ヒッチコックは常に何も見せなかったけれど、われわれは恐怖した。(『サイコ』の)シャワーシーンが今作られたら、一面血の海として見せられただろう。私は、想像力のほうが、より重要なのだと思う」

(c)AFP/Helen ROWE