【3月1日 AFP】ケニアのサバンナで夜が明ける頃、クヤソ・ロコロイさん(25)は携帯電話を手に、住んでいる小屋をそっと抜け出し、ひそかに森の中へと向かう──。サンブル(Samburu)国立保護区ではここ数か月間、ゾウやサイの密猟が増加しており、ロコロイさんは毎朝2時間、サンブル(Samburu)国立保護区の森の中をパトロールし、密猟者たちの行動に目を光らせている。

 首都ナイロビ(Nairobi)から約400キロメートル北方に位置するサンブル地区は、東アフリカ地域最大規模を誇る野生のゾウの生息地帯だ。

■「密猟者」から「番人」へ

 1年前は、ロコロイさん自身も保護区に生い茂るアカシアの低木の間から獲物を狙う密猟者の一人だった。しかし、武装した保護区のレンジャーに追跡され身の危険を感じて以来、彼自身も「猟場の番人」に転身したのだ。密猟が後を絶たないこの保護区では、密猟者に対する発砲が数か月前より許可されている。

「密猟をしていた頃の方が、パトロールをしている今より重武装だったと思う。森の中でゾウを見つけるたびに忍び寄って殺していた」と話すロコロイさん。獲物を狙う時のようなゼスチャーをしながら「腕は良かったよ。オスのゾウも、たった一発で仕留めることができた」と当時を振り返った。

 15歳で初めてゾウを殺して以来、10年にわたって密猟を続けてきたというロコロイさんだが、密猟者としての生活には不安を覚えていたようだ。中間業者に象牙を売ることでは決して豊かになることはなかったと説明しながら、「寂しすぎた。その先には死しかなかっただろう」と心情を吐露した。ロコロイさんは今も貧しく、住む家は泥を固めただけの小屋だ。密猟をしていた頃に得たものなど、ほとんど何もない。

 密猟はアフリカ全体で増加傾向にある。象牙のために、群れごといっぺんに殺されたこともある。アジアの闇市場では現在、象牙1キログラムあたり約2000ドル(約18万5000円)で取引されている。

■抜け出せない貧困

 ロコロイさんたちのように、訓練を受けていない者がパトロールしても報酬が払われることはない。密猟者を拘束した実績もあり「有能」であることを証明して、地元自然環境保護団体での就職に希望を抱いてはいるが、雇用機会の少ない現状において、彼らがまた密猟の世界にもどってしまう可能性は依然残る。

 ロコロイさんのパトロールには、20歳のニコデムス・サンピーレさんも同行する。サンピーレさんは、「ここ数か月間でゾウを何頭か助けた。わなにかかったゾウも逃がしてやった」と嬉しそうに話す。しかし、この地域で高校を卒業した数少ない1人であるにもかかわらず、サンピーレさんは職を得ることには悲観的だ。

「この辺りでは、僕は教育を受けているほうだ。でも、自然環境保護団体の仕事にも就けない」と話し、「年長者たちからは、野生動物を傷つけてはいけないといつも言われてきた。でも生き残るために、(密猟の)他に何ができるというのだろう?」と続けた。

 パトロールから戻ったロコロイさんは、家族の食べる物を得るため、すぐに別の仕事を捜しに出かけなければならない。「大変だよ。でも僕は決めたんだ。これまで、世界から多くのものを(不当に)手に入れた。今度はお返しする番だ」

 最後に、これまでに殺したゾウの数をロコロイさんに尋ねてみた。答えは、「たくさん」の一言だった。(c)AFP/Daniel Wesangula